「温度センサーの解明が進む」という科学記事が6月18日の朝日新聞に載っていた。これはエピジェネティックスについての記事だと思うのだが、もうそういう知識は世間に流布しているとみえて、特に言及されていなかった。
昔、私が高校生のころは遺伝学にはメンデルの遺伝学とルイセンコの遺伝学があって、生物の先生は「どちらかがうそを言っているのだが、まだ決着がついていない」ということだった。
ところが、私は知らなかったが、そのころ学会では論争が巻き起こっており、まもなくメンデル遺伝学の勝利に終わった。
数年前に、伊藤康彦さんの『武谷三男の生物学思想』(風媒社、2013)が出版されて、一時期ルイセンコ遺伝学の肩をもった、武谷三男の論説が掘り起こされて大いに批判された。
そのことは妥当な見解ではあたったろうが、武谷三男を研究している者にはちょっとおもしろくないところもある。その点の一つが最近のエピジェネティックスと関係したことでもある。
朝日新聞の記事は、ミシシッピーワニの性別をワニの温度センサーが決めているという。これはもちろん遺伝子が遺伝の主導的な役割をしていることは間違いがないが、それでも遺伝子の発現のスイッチが入るか入らないかで、ワニの性別が決まっているという(注)。
これはもちろん環境による獲得形質の遺伝ではないのだが、環境に遺伝子が影響を受けていることを示している。そういう話は伊藤康彦さんの本には触れられていない。
それと武谷の進化論についての疑問と遺伝学との違和感とを問題にすべきであったろうに、それが十分にはされていないと思っている。