数学・物理通信に投稿された原稿の内容が、このWKB近似である。投稿者は「トンネル効果」とタイトルをつけているのだが、実はこの原稿のテーマはWKB近似の問題なのである。
それで生まれてはじめてWKB近似について勉強をはじめた。
もちろん大学の量子力学でこの近似については教わったが、このときはその本質が何かはよく考えなかったので、接続公式が云々ということしか頭に残っていない。
きちんとWKB近似を学ぶにはKembleの量子力学の本をどうしても読まなければならないという風に思っていたようである。
これはSchiffの量子力学の本にKembleが引用されていたことと、量子力学の講義をしてくださったS先生がWKB近似をきちんと知るにはKembleの本を読めと口に出して言われたからである。
ところがそのWKB近似の本質は同じなのだろうが、もっている量子力学のテキストを出して調べてみると書き方はいろいろでかなり書き方は違っているような気がする。
それで、いま戸惑っている。投稿された原稿はおよそのところはやっと最近になって理解できたと思うようになったが、それで十分なのかと。
そういえば、いま思い出したのだが、一度だけランダウ=リフシッツの量子力学の訳書のWKB近似の箇所を読んでノートをつくったことを思い出した。多分、カタストロフィー理論の応用として何かいいものがないかと探していたときだったのであろう。
トンネル効果の理解にはWKB近似はあまりいらないと私は思っている。なぜなら、粒子の一般のポテンシャル・バリヤーの透過確率はポテンシャルの大きさが一定のときの類推でWKB近似で得られた式に触れたのでいいから。
だから30年以上工学部で量子力学の講義をしてきたが、一度もWKB近似の話をしたことがなかった。トンネル効果の話は毎年必ずしたけれども。
もっとも新しい学問をつくる立場に立てば、もちろんWKB近似のことをきちんと学習することは大切だが、それは必要ができたときに勉強すればいい。
昨日、TEDカンファランスでの教育学者のKen Robertsonの講演についてJyoi Ito(伊藤穣一)さんがinterest-driven learningの大切さを強調していたが、それと同じ観点からである。
(2012.9.12 付記) Kembleの量子力学のテクストは少し古いもので私ももっていない。最近アマゾンコムで検索したら、こういう古いテクストで学ばない方がいいと書評に出ていた。そうかもしれない。
(2013.9.11 付記) WKB近似の解説論文が数学・物理通信3巻3号に掲載されている。
これは森本安夫さんの書かれた労作なのだが、それもわかりにくいというので私が補足をつけ加えた。ところがその補足の議論が正しくないところがあり、N先生からご批判を頂いた。
いつかちゃんとした議論をしたいが、なかなかその機会はなさそうである。だが、WKB近似についての数学・物理通信3巻3号の解説はいくぶんでも今までの文献の足らないところを補うのではないかと考えている。
『数学・物理通信』は検索をすると名古屋大学の谷村さんのサイトにリンクされているので、容易にアクセスできる。谷村さん、いつもありがとうございます。
(2023.6.14付記) いろいろ問題点はあろうが、WKB近似について森本さんの書かれた論文は意味があると思うので、関心のある方はぜひ参照ください。私の書いた補足も見てみてください。間違っているとの指摘も受けているのでそのことを考慮しながら読んでみてください。