自民党元衆院議員の小里貞利さん、読売新聞九州版より拝借。
衆参ねじれと震災で、衆参・与野党の枠を越えて、力のある国会議員による閣法修正成立、議員立法成立をなしとげた2011年(平成23年)の国会もいよいよ、残り1日となりました。
ところが、力のある民主党1期生が、総理の野田佳彦さんを官邸に押しかけて、「郵政改革法案の成立を」「国家公務員給与引き下げ法案の成立を」などと直談判。さらには「このままでは不安だ」「来年の通常国会も、当初予算審議から始まるから法案審議はずっと後になってしまう」とツイッターやブログで発する事態になっています。
たしかに、対抗馬が都市部でありながら踏みとどまった自民党若手有力株だったり、二世議員ながら政治改革で一貫し、さきがけ解党に伴い自民党に戻った筋を通した閣僚経験者の元職だったりしたら、不安になるのも当然。しっかりやっているのに、国会や党幹部がしっかりしてほしいという隔靴掻痒。
でも、法案を良く読むと、これはおかしい。ムリヤリ会期を延長して通すような法案ではありません。例えば、国家公務員給与引き下げ関連法案の中には、人事院を廃止し、内閣府公務員庁をつくり、出先機関を新設するなどという内容が含まれています。だから、今国会で政府特別補佐人の江利川毅・人事院総裁(昭和45年厚生省)が「人勧不実施は憲法違反だ」なとど激しく現政府を批判する答弁をしていたのだと納得しました。江利川さんは内務官僚エリートコースを来た人らしい、とても律儀なジェントルマンだと、私は拝察していました。ただ、自らが内閣総務官として閣議の段取りをしていた時代に決まった橋本行革のあおりもあり、厚労省ではなく内閣府事務次官になったころには、記者会見などで「ちょっと江利川さん人相悪くなったよね」と記者仲間と賛同したものです。ところが、なんと本籍地の厚労省の事務次官に横滑りというおそらく太政官布告以来初めての運に恵まれると、またやさしい江利川さんに戻りました。認証官である人事院総裁となった際には、あいさつしたいと国会内幹事長室に当時の民主党幹事長、岡田克也さんを訪問。あいさつもそこそこに、封筒から資料を出して総裁自らご説明を始めようとすると、「ちょっと私、(外相を辞めて)幹事長になってから、細かい政策を受け付けないので、お引き取り願った」と岡田さんは記者会見で明かしています。これは以下にも江利川さんらしい。「直勝内閣」と呼ばれていますが、財務官僚だけでなく、内務官僚がいなければ、政府は回りません。この時期から7・8%引き下げたところで、削減できる歳出はさほど大きくない。むしろ、国家公務員の士気が下がるほうが問題です。例えば、内閣府の旧経済企画庁部局や、経産省の官僚の士気が下がらなければ、逆に経世済民、経済感覚は大丈夫なのかと逆に心配になります。超デフレ政策を立案しかねません。ですから、人事院を残して、今年度人勧を実施した上で、国家公務員給与を引き下げる法案を通常国会に出し直す。そして、マニフェストに入れて、民意という力で特別国会で審議するのが得策でしょう。郵政株はとても素晴らしい埋蔵金(税外収入)ですが、すぐにオカネになるものでもないし、郵政民営化一時凍結法(自見法)を改正すれば、株式は売れます。国民新党の参議院での3議席は重要です。だからこそ、誠実な話し合いのもと、来年にかけてじっくりやるべきでしょう。
今年の国会では、与野党から、すでに亡くなったり、引退した政治家の名前が何度も上がりました。橋本龍太郎さん。これは「橋本行革」と「普天間返還合意」で。山中貞則さん。これは「消費税新設の税制改正」とやはり「沖縄問題」で。そして、小里貞利さん。こちらは「阪神・淡路大震災の復旧・復興担当大臣」として。小里さんはご健在ですから、自民党などは勉強会で小里さんから生の声を聞くことができました。
【まあ、そうあわてなさんな】
小里さんは橋本行革ができたときの担当大臣・総務庁長官でもありました。これは忘れている人も多いと思います。当初は副総理格の大物として外相経験もあった武藤嘉文さんが総務庁長官を務めました。ただ、内閣改造の際に、橋本首相は「先日、自民党の行政改革本部に出席したときに、政府と党で認識のズレを感じた」という趣旨のことを言って、佐藤孝行・党行革本部長と武藤さんの入れ替えます。私は橋本首相のホントウの理由は違うと思います。おそらく佐藤さんの派閥の中曽根康弘会長が押し込んだのではないかと今でも推測しています。そのロッキード事件の黒色高官(よく「灰色高官」と言われますが、佐藤さんは有罪なので「黒色高官」というべきです)だった佐藤大臣は1週間で辞任しました。そして、そのあと、阪神・淡路大震災からわずか2年半で、小里さんがまたしてもリリーフとして大臣になりました。
この行革会議が最終段階のとき、総理番記者が一問一答で合計10回ほど総理に質問をしました。橋本さんも答えてくれました。ちなみにこの記者はとても優秀かつ尊敬されていて、お父さんも別の会社で後に社長を務めた人です。この記者は今も現役の政治記者です。執拗に攻める。橋本行革の最終段階ですが、最後の最後の抵抗とのせめぎ合い。総理と記者もせめぎ合い。このとき、総理の真後ろに居た小里長官は、会議室の扉の近くで、とつぜん後ろからこの記者の肩を叩きました。そして、ひと言。
「まあ、そうあわてなさんな」
極度の緊張感の深夜の首相官邸。総理と小里大臣が会議室の中に消えた後、廊下にいる番記者は爆笑。電話連絡先のキャップもみんな緊張がほぐれた爆笑だったようです。橋本首相と番記者とのぶら下がり一問一答の攻防は今でも語りぐさですが、後にも先にも、「首相」「記者」の後に、「小里総務庁長官」と第3者が登場したのは、このときのやりとりだけのようです。
まあ、そうあわてなさんな。小里さんの衆院議員初当選は49歳です。それでも震災対策担当大臣、労働大臣、北海道開発庁長官、沖縄開発庁長官、総務庁長官のほか、自民党総務会長を務めました。そして、ことしの震災国会で何度も名前が出て、議事録に残り、引退後も後輩たちに呼ばれる。そういった小里貞利さんが、震災という修羅場で官僚の要請を一手に引き受けられた。そのすべてが詰まっているのが、まあ、そうあわてなさんな。ではないか。組織にはこういう人が必要だ。だから閣議決定から14年経った今も、わずかな手直し(公取など)だけで、橋本行革が残り、国会でその名前があがるのでしょう。
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