’91年2月~’93年10月までの2年8か月。
私の愛車≒リアルで愛したクルマが「ユーノス・ロードスター」(いわゆるNAロードスター)だった。
就職が決まっていたとはいえ、まだ学生だった当時の私は、金利9.8%の5年ローンを組んで、まさに清水の舞台から墜落する気持ちで、初代シティからこのクルマに乗り換えたのである。
その「ユーノスロードスター」を、カタログで振り返ってみたいと思う。
このカタログは、「1989年10月現在」のモノ。
ユーノス・ロードスターの、ほぼ最初期のカタログであると、思われる。
「だれもが、しあわせになる。」
このコピーが、当時免許取得から1年経っていなかった私の、ハートを鷲掴みにしたのだ。
Bow氏のイラストが、そこここに散りばめられた、このカタログ。
ちなみに上のイラストは、私が所有するお宝である「ユーノス・ロードスター トランプ」と同一の絵柄である。
イメージカラーは「クラシックレッド」。
このクルマは、走っている姿が、そして幌を開けている姿が、本当に良く似合い、なにか生き物のように活き活きして見える。
とはいえ、幌を閉じている姿も、なにかしゃなりとして、決して悪くない。
このカラーは、私の愛車だったクルマと同じ「マリナーブルー」である。
どんな風景の中にあっても絵になる、そのスタイル。
ただ愛らしいだけではなく、なにか凛としたカッコ良さを持っている。
クラシカルな5連メーター。
「油圧計」(中央上)が装着されているのが、当時としても珍しい。
まあ、私は、あんまりそれを気にしたことはなかったが・・・(^^;
ブラック基調のスポーティなインテリア。
サイドブレーキレバーが助手席側に寄っているのは、「左ハンドルの輸出仕様とパーツを共有していた」がゆえである。
だが、タイトな室内空間なので、それはむしろ「右ハンドルの方にちょうどイイ位置」だったともいえる。
撥水加工のバケットシートも、掛け心地上々。
ヘッドレスト内左右には、オーディオスピーカーが内臓されており、これがオープン・エアでも、心地良いミュージックを、鼓膜に届けてくれた。
「ファン調整ダイヤル+3本レバー式」の空調コントロール。
これは手を伸ばすとちょうどいい位置にあり、手探り操作性もバツグンで、本当に使いやすかった。
秋の晴れた日なんかだと、ヒーターを効かせれば、フルオープンにしてもそんなに寒くない・・・というか、むしろ頭寒足熱で、非常に気持ち良かった。
ちなみに、幌のオープンカーというヤツは、夏はとても暑い。
なので、エアコンは必需品である。
当時、エアコンはショップオプションだったが、セールスレディさんに勧められて、私は装着していた。
そしてそれは、「大正解」であった。
「人馬一体、ということ。」
このクルマが納車された時。
札幌は冬真っ只中で、路面はツルツルのテカテカであった。
FFのシティから、FRのロードスター。
クルマの挙動の違いは、スリッピーな路面だと、如実に感じられる。
当時の彼女(≒現妻)を乗せて運転した際に、お尻を踊らせないように、非常に慎重に走ったことが、今も鮮明に思い出される。
しかしながら。ロードスターは、リヤアクスルが自分のすぐ背後にあるので、挙動が実に掴みやすい。
そして、その脚は、想像していたよりも、ずっとしなやか。
冬の札幌の「氷雪でソロバン状になった路面」を、その4輪ダブルウィッシュボーンサスペンションは上手にいなし、意外にも安定して走る。
また、「ビスカスLSD」の効用か、私はこのクルマで冬に「スタックし、スノーヘルパーのお世話になった」ことも、幸いにして、無かった。
加えて、50:50の重量配分と低重心ゆえか、ブレーキング時には4輪が路面をしっかり掴み、沈み込むように止まる(ABSは無かったが・・・)。
事実として。冬道においては、初代ホンダ・シティよりも、このユーノス・ロードスターの方が、安全かつリラックスして走れたのである。
「排気音まで、速い。」
1.6リッター4気筒DOHCエンジンの最高出力は、120psと、決してハイパワーではない。
当時のホンダのVTEC1.6リッターが、カミソリのように回り160psを発揮していたのと較べると、明らかに見劣りする。
だがしかし。このB6型エンジンも、踏めばそれなりに回るし、爽快なスポーティ感で、このロードスターを走らせる。
「ブロロン!」と心地良い低音のこのエンジンは、このオープンボディにちょうど良いスペックだったと思う。
「いつもの40km/hとは、まるで違う。」
フィットしたスニーカーのように、普段使いでも「なにか、いい気分」なのが、このロードスターである。
たとえばタバコを買いに行くのにも、自転車感覚ですぐに連れ出して、そこの四つ角を曲がりたくなる。
本当に「運転が愉しいクルマ」なのだ。
「オープンであることを、忘れてしまう。」
ボディの剛性感も、この当時の水準としては、確かにしっかりしていた。
低速域でローとかセカンドの低いギアでアクセルをON-OFFすると、それが如実に分かる。
またしても引き合いに出してしまって申し訳ないが、初代シティでそんなことをすると、緩いエンジンマウント&横置きFFゆえに、「スナッチ」と呼ばれるガクガク現象が起きてしまうのだ。
パワープラントフレーム&縦置きFRのロードスターでは、そんな現象に悩まされることはなかった。
「身のこなしが、軽くなる。」
優れた重量配分は、コーナーリング時はもとより、前述したようにブレーキング時にも、安心感をもたらす。
そして、運転席に座っていながらにして、フルオープンにすることが出来るのも、大きな美点。
手順に慣れれば、信号待ちの間にも、それは可能だ。
突然の雨で、幌を閉じるのも、また然り。
「強化ビニール製のリアウインドウをチャックで開け閉めするコツ」さえ掴んでしまえば、大丈夫だ。
「ホールド ミー タイト。」
心地よいタイト感の、コクピット。
ショートストロークで、スコスコ決まる、MTシフト。
ヒール&トゥに適した、ペダルレイアウト。
まさに、ドライバーズ・ファースト!
そして、装備品の数々。
この初期モデルでは「ロッドアンテナ」は脱着式だったが、マイチェン後には電動格納式に変更されている。
また、サイドミラーも、後に電動リモコン式にグレードアップされた。
その辺は、もともとは「軽量化のためにあえて電動化していなかった」のだろうが、市場の要望に応じて、変更を余儀なくされたのだろう。
私のロードスターは「スペシャルパッケージ」という、セットオプションを装着していた。
これは「パワステ」「パワーウインドー」「本革巻ステアリング」「アルミホイール」の4点セット。
手のひらに汗をかきやすい体質の私にとって、特に「本革巻ステアリング」は、ぜひとも欲しいアイテムだったのだ。
ちなみに、「パワステ付モデル」と「パワステ無モデル」ではステアリングのギア比が異なっており、「パワステ付」の方がクイックなレシオなのだ。
また、この初期型NAロードスターのパワーウインドーには「運転席ワンタッチ機構」が付いていなかったが、それは後のマイチェンモデルでは、その機構を追加している・・・ハズである。
さらには、初期型NAロードスターには「トランクオープナー」が付いていなかったが、それもどこかのマイチェンのタイミングで、追加された・・・ハズである。
私は北海道という寒冷積雪地帯に住み、屋外駐車だったゆえ、冬期間は幌のケアのために「ディタッチャブルハードトップ」を、装着していた。
これは、スタッドレスタイヤ⇔夏タイヤに交換する時期に合わせて脱着し、夏季は物置に保管していた。
その脱着は一人では無理で、いつも私はウチの向かいに住んでいた叔父に、手伝ってもらっていたものだ。
また、初期型の「ディタッチャブルハードトップ」は「熱線プリント付ではなかった」が、それもどこかのマイチェンのタイミングで、「熱線プリント付になった」・・・ハズである。
だがしかし、私の経験上。
このクルマは室内空間がタイトなので、エアコンONでデフロスターを効かせていれば、ハードトップのリヤウインドウが曇ることはなかった。
ゆえに、個人的見解では、このハードトップに熱線プリントは、必要ないと思う。
ショップオプションの中から、私のロードスターに「エアコン」を装着していたのは、前述のとおりである。
ユーノス・ロードスター登場当時。
ボディーカラーは「赤」「銀」「白」「青」の4種と、少なかった。
その後、追加グレードである「Vスペシャル」の「ネオグリーン」を皮切りに、魅力的なカラーの限定車が次々と登場し、私に地団駄を踏ませてくれた。
その魅力的な限定車たちについては、今後、順次、事細かに、触れていく所存です。
このクルマの登場当初は、トランスミッションは5MTのみで、ATは設定なしという、潔さ!
AT全盛の現代では、まずあり得ない展開である。
後に、市場の要望からか、AT車も追加設定されたのではあるが・・・
ともあれ。ユーノス・ロードスターというクルマは、まさに、日本車の奇跡だった。
このカタログの写真の美しさや、そのストーリー的組み立ては、まさに一編の映画のように、私のココロを捉えた。
これも、あの「バブル」という時代があったからこその、副産物というか、天の恵みだったのだろう。
ああ、インターネットなど無かった、あの頃。
飽きもせずこのカタログを眺め、そして自動車関連誌で情報収集し、「このクルマに、いつか乗ろう」と、思い描いていた私。
あの時に、NAロードスターを買った決断は、やはり間違っていなかった。
あの時に買っていなければ、一生、NAロードスターと暮らすことは、出来なかったであろう。
ロードスターも「NA」→「NB」→「NC」→「ND」と進化したが、スタイリングに普遍的なオーラがあるのは、やはりこの「NA」だ。
クラシック・ミニ同様、歴史に残る、エバーグリーンな一台だと思う。