
さて、
巷では賛否両論のトヨタiQ。一般ユーザーの間では、否定的な意見も結構多いように思われ、私も見た目ではあまり好感の持てないクルマだったりする。だが、実際に運転してみると、また印象は違うのかもしれない。そこで、我々取材班は事実確認のために、いそいそと試乗に出かけた。

幸いなことに、この日の札幌は結構雪が降り、路面状況はザクザクかつスリッピィ。低速走行でも色々なコトが起こりうるこの悪条件でiQを走らせることが出来たのは、実に面白い体験であった。
ドアは大きくて、ずっしりとした重さである。閉めた時の音も悪くない。だが、車幅が普通にある2ドア車ゆえに、狭い駐車場では開閉に気を遣いそうだ。
走り出すと、短いこのクルマが想像よりずっと静かであることに驚く。また、しなやかな足回りはザクザク路面をいなすように走り、ホイールベースの短さからは想像できないフラット感がある。ステアリングは適度に重く、センターがきちんと出ていて、安心感がある。その上質なフィールはまるで
レガシィ2.0iを走らせているかのようだ。
狭い生活道路に入りこんでみると、雪の路面状況はますます酷かった。だが、このiQはまったく挙動を乱さない。インパネを見ると「
S-VSC」のインジケーターが激しく点滅してその作動を教えてくれるが、そのインジケーターを見ない限りは、この電子デバイスの介入は私のような素人ドライバーには感じられなかった。知らないうちにクルマが助けてくれている感じで、そのスタビリティは、極めて高い。ABSも、氷雪上において、信頼感溢れる制動力をみせてくれた。

だが、ドライバーが適度なドライビングポジションを取ると、運転席後の席のレッグスペースは、無いに等しい。ココに人が座るのは、実際には子供でも無理であろう。このクルマは4人家族のファーストカーにはなり得ない。やはり、
スペシャリティーカー的なクルマなのだろうと思う。
また、小さいクルマなのだが、運転席から見ると左端の感覚が摑みづらく、後方視界も狭いため、パーキングはあまりやり易くない。全長&最小回転半径の小ささが、活かし切れていないという印象である。ま、幅は普通にあるしねぇ。正直言って、日本で使うなら、軽自動車の方が色々な面で使いやすいだろう。
それと、なんだかエスティマの顔だけが走っているような印象のスタイルも、私としてはあまり受け入れられない。

全長3mを切るというコンセプトのこのクルマ。たとえば、日本中がこのクルマだらけになれば、首都高速の15kmに渡る渋滞が12kmくらいにまで減るかもしれない。
だが、現状ではこのクルマ1台で日常の全てをまかなえるのはごく僅かなユーザーに限られると思われる。トヨタの販売目標は月間2,500台だというが、それは恐ろしく強気な目標だと思う。そんなに売れるワケはなかろうというのが、率直な私の感想だ。
かつて360ccだった頃の軽自動車枠は、全長3m以下だった。「スバル360」に私は乗ったことはないが、
写真で見る限りは、家族4人のファーストカーとしての使用に耐えていたように思える。
また、私がかつて乗っていた「
ホンダ・シティ」は全長3,380mmだったが、大人4人乗車で、ビールの大瓶のケースも積載可能だった。
ただし、昔の衝突安全の基準が現代よりも緩かったのは歴然とした事実。だから私は、iQには《現代の安全基準で作る「スバル360」あるいは「ホンダ・シティ」》を目指して欲しかった。単なる《「スマート」への刺客》でしかないこのクルマは、大トヨタが鳴り物入りでリリースしたクルマとしては、日本のユーザーにとってあまりにも使いづらい。全長3m以下であることにこだわり過ぎずに、せめて大人4人がキッチリ座れるクルマを作って欲しかったと、私は切に思う。