すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

逃げても見える「習慣と信頼」

2011年01月08日 | 雑記帳
 一週間かかって読了した今年初めての小説は『ゴールデンスランバー』。
 伊坂幸太郎作品である。12月に文庫化されていた。

 700ページ近い長編で、今改めてめくり直すと結構凝った構成であることがわかる。
 第一部「事件のはじまり」と第四部「事件」の間に、短い二部、三部として「事件の視聴者」「事件から二十年後」を入れてあるのだが、全体を見渡すと、これがなかなか面白いと思う。

 詳しく読み砕くときっと様々な伏線があるのだろうけど、すぐ読み直すのはちょっとしんどいので、ここは「惹句の達人」(勝手に命名)伊坂の、この作品でのベスト3を挙げて、感想メモとしたい。

 首相殺害の犯人に仕立てられた主人公青柳雅春の父が、群がるマスコミに向かって放つ言葉。

 自分の仕事が他人の人生を台無しにするかもしれねぇんだったら、覚悟はいるんだよ。バスの運転手も、ビルの設計士も、料理人もな、みんな最善の注意を払ってやってんだよ。なぜなら、他人の人生を背負っているからだ。覚悟を持てよ。

 こんな言葉をよくあるテレビのインタビュワーが群がる画面で聞けたら痛快だろう。放送するわけないか。

 青柳とかかわりを持つことになる連続殺人犯三浦が、最後に言い残すようにつぶやいた言葉。
 この小説の大きな柱はここだ。

 国や権力を敵に回したら、できるのは逃げることだけだ

 その逃げ方が問われる。そこに物語を仕立てるのが作家だ。
 従って、数回出てくるこの言葉がベスト1だなと思っている。
 青柳はこれを頼りに逃げ切った。巻き込まれて爆死した親友森田森吾の言葉

 人間の最大の武器は、習慣と信頼だ。

 逃げ切った後にも、習慣と信頼が人間を支えるというラストシーンも印象が残る。

 展開がはやく、回想シーンが頻繁に出てくるこの話は、やはり映像向きだ。
 早々に映画化されたわけがわかるような気がする。映像でもみてみたい。