すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

僕のなかのニガイ大根の部分

2011年01月23日 | 読書
 『僕のなかの壊れていない部分』(白石一文 光文社)

 初めて読む作家である。
 確か何か賞をもらっているはずと、調べたら直木賞だったが、結構この本は難解だなあと感じた。
 奥田英朗など非常にエンターテイメント的な作家も受賞しているし、直木賞って幅が広いんだなということを初めて思う。
 
 この主人公は理解しがたい男だった。親しくしている若者男女二人の心も、どうもつかみきれない部分が結構ある。
 心情に寄り添える登場人物は、主人公から批判、非難される側の人たちばかりで、その意味では居心地の悪さを抱えながら、しかしどこかそれに身を委ねたい気分もあって、ほぼ一日で読了してしまった。

 主人公が小説などの一節を丸々暗記しているという設定があり、引用箇所が多いのも読み手を惹きつける要素かなと考えた。
 三島由紀夫が多いことも、生と死というテーマにはふさわしいのだろうが、このあたりは文学的素養がないと読みとれないことも多いのかもしれない。

 半分まで読み進めていたら、主人公の内言として突然「真知子」という名前出てきて、あれっ読み過ごしたのかなと前をめくったりすることもあった。結局、主人公に大きく影響を残しているその人物のことが中盤部以降で語られる。
 自分なりに、主人公の「壊れていない部分」はその真知子さんの存在かなあと思ったりする。

 ここで引用された常岡一郎という宗教家の文章は、わかりやすく興味深かった。

 つまり、人間に食べられる大根が、その人間に復讐しようとニガイ大根になったとしたら捨てられて断絶してしまう。甘くしようという人間の誠意に応えて美味しくなれば、様々な場所へその種が行き渡り、願わずとも求めずとも子孫繁栄する…というお話。

 なんと滋味深いではありませんか。

 しかし、この小説はそんなハートウォーミングさとはかけ離れたチクチクするような話でした。
 表紙に感じがよく出ています。
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