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自分をつくる選択の連続

2013年12月20日 | 読書
 『あなたがいる場所』(沢木耕太郎 新潮文庫)


 著者初の短編小説集で9編収められている。取り上げられている題材の多くは日常にありがちな「ふつう+α」の範囲にあり,身近に起きても不思議のない出来事とも言える。しかし,誰もが抱えている秘密,事情,都合といった要素が各々の作品の人物の行動選択に大きく関わっていて,読者をすうっと惹きこむ。


 小中高校生を主人公にしている作品が4編あった。また退職した女教師が描かれた短編もある。この作品では,新米教師だった時のエピソードを思い出す場面が上手い。さらっとした心情を表現しているように見えて,その些細な過ちを思いだす「根」の部分が,彼女の人生に深く投影されている重みを感じさせる。


 『白い鳩』は,中学生の「いじめ」問題に関わる背景をもつ。ごく平凡な生徒の現実を描きながら,人間の心理とか習性をえぐりだす感じを受けた。表面的に大きな問題に発展してはいかないが,ずっと心の中に燻り続ける「学校」という舞台での苦い「物語」は,今日もこの国で幾千と展開されていることを想う。


 「人生は選択の連続」と野口芳宏先生が仰ったことがある。この小説の解説に,重なる一文がある。「ひとつひとつ,こっちにいこうと悩んで進んで,その連続の先にいつしか私自身があわられて,今度は私自身しかできようのない決断を迫られていく(角田光代)」…私自身をつくる選択の連続が生きるということ。