書店で目にとまった『雪男は向こうからやってきた』(角幡唯介 講談社文庫)。自然ノンフィクションは得手ではないが、なにしろ題名がいい。新田次郎文学賞もとっている作品だし…と購入した。その時にレジの所でいただいた今月号の『本』を開いてびっくり。この著者が冒頭の特別対談の一人だった。
新作で「講談社ノンフィクション賞」を受賞したそうだ。ダブル受賞した大学時の探検部の先輩と対談している。独特の雰囲気が漂う場だ。自分にはかなり縁遠い世界ではあるが、それゆえに想像も広がる。「文章は探検部で学んだ」というくだりは凄いなあ。体験を伝えるという根本から発する魅力にあふれている。
「最上級の麻薬」と題して酒井順子がユーミンについて書いている。「ユーミンを聴くことによって自己を肯定しながら青春を過ごした者」ではないが(当然か)、時代の風としての存在感を常に感じさせてくれた一人だ。それにしても新書『ユーミンの罪』という題名はどうだ。上手いが、もしかして責任転嫁?
二宮清純の連載は「上原浩治が打たれない理由」。野球ファンならば、今年の上原の活躍を称賛しない者はいないだろう。その理由に、今までの道のりの険しさにへこたれなかった粘り強さを挙げる人は非常に多いはずだ。プロ入り当時、怪物松阪大輔との比較で常に用いられた「雑草魂」。根強く残る本物の言葉だ。
「天の邪鬼」は青木理というライターの文章だ。自著を紹介しながら、ノンフィクションの発表の場が姿を細めていることを危惧している。出版界の問題として深刻なだけでなく、現実をえぐり出す眼の存在が追いやられている印象も持つ。この文章を読み、なぜか、自分はルポが好きで、憧れていることに気づく。