すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

時間はいつもやって来るという思想

2013年12月29日 | 読書
 本を読み始めた日の夜に,変な夢を見た。

 子どもたちが外で何かやっているときに,自分が傍にかけつけて「はやく,はやく」と叫ぶ。そのとたんに,えっ俺なんでこんなこと言っているんだ,いやいやそんなつもりはないよ,と懸命に弁明し始める…
 「百万秒の冬休み」なんて,大きく見せたけど結局時間管理になってしまったことを,あれえっと思ったからか。

 さて,この本である。

 『「ゆっくり」でいいんだよ』(辻信一  ちくまプリマ―新書)

 スローライフの提唱者である著者が,入門書として記した新書である。
 現在のスピード化が結局のところ,経済優先の思想に基づいていることはよくわかる。
 その世の中にブレーキをかけることは困難なのかもしれないが,個人のコントロールや一時停止はできるはずだということを思い起こさせてくれる。

 しかし,では具体的に何を…というとき,きちんと目の前の暮らしに向き合っていないと,どんどんスピードを増していく周囲に手を引っ張られ,尻を押されてしまいかねない。
 そのうちに,自分でも足が止まらなくなってしまい,そのことに快感を得るようになったら御終いだなと…

 クマールさんというインド人活動家が紹介されていた。
 エピソードにあるその母親の言葉が素敵だ。

 「神様は時間を作る時,たっぷりとたくさん作ったのよ。…私にとって,時間は使い果たしてしまうものじゃなくて,いつもやって来るものなの。いつだって明日があり,来週があり,来月があり,来年があり,来世さえあるのよ。なぜ,急ぐのかしら」

 それでもなお時間の節約が他にいろいろなことができると反論する子に対して,お母さんは,自分たちが便利さを求めるために,苦しむ存在がいることを諭した。
 今,この国で自分たちが手にしている便利さは,結局のところ何かを壊したり,捨て去ったりした結果にある。必要以上にエスカレートしていく現実にあることを誰も否定できまい。

 原理主義的な環境優先を目指しているわけではない。目指せるわけもない。

 ただ,結局のところ,スピードや経済がもたらす幸福感の限界をもうみんな知ってしまっているではないか。
 このままじゃ,子どもたちに手渡されないなあ。