すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

少しだめになる日常とは…

2017年03月11日 | 読書
 バラエティを見ていて「鋭い」と感じる発言をする芸能人がたまにいる。ニュース番組のキャスターに配することの良し悪しはともかく、Eテレあたりの番組なら十分に許せるし、楽しい。その一人「コイツ、ただのデブじゃないな(最近痩せたが)」と思わせるのが伊集院光。風呂場読書にいいと思って文庫本を購入。


2017読了23
『のはなしに ~カニの巻~』(伊集院光  宝島社)



 どんな職業にあっても、自分の位置を維持するためにそれなりの努力は欠かせない。「ネタ集めのために」10紙以上の新聞を購読していた時もあるというのだから、そこにはパワーとパッションを感じる。集められた「小ネタ」はやはり小さいものだが、だからこその真実も見えてくる。あるエピソードが秀逸だった。


 PCが壊れて修理に出した。購入店に持ち込み「3週間で」という返答をもらう。期日になり店に問い合わせると「メーカーへ」と言われる。そこで直接電話すると、担当者が「あと3週間」と答える。そこで「どういうこと?」と聞き返すと、「明日出来る」という返答に変わった。ごねればいいのかと逡巡した著者。


 結局、クレーマー扱いされたくないし早く手元に届いてほしいので、それ以上話をせずに電話を切る。しかし、もし「わかりました」と言っていたらどうなったのか、間違いなく待たされた…「ごね得」ではなく「ごねない損」かと浮かび、そんな応対が目立つ世の中と自身の心について考え、こんなふうに章を結ぶ。

 翌日の夜、パソコンは手元に届いたが、僕は少しだめになった。


 著者は「素直に承諾したものが損をする」ようなシステムを批判しつつ、店やメーカー側の不誠実をなじることで済ませていない。正当な理由があるなら毅然と説明する、ミスがあるなら謝るといった「誠実さ」を引き出せなかった自分を内省する。処理を急ぐ日常が「だめ」にしているコト、モノがいかに多いか。