すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

「私は立ち止まらないよ」と繰り返す

2017年03月26日 | 読書
 「私は立ち止まらないよ」…詩集は、その一行から始まる。おそらく日本で最も名の知られているだろうこの詩人は、仕事の範囲の広さで多くの人に印象づけられている。まさしく「立ち止まらない」姿と言ってもいいが、それはかつて詩人が口にした「フロー」という響きと結びつく。従って「物語」も流れている。


2017読了31
 『トロムソコラージュ』(谷川俊太郎  新潮文庫)



 この詩集は「長編物語詩」を中心に構成されている。「物語」と「詩」の対比についてあまり考えたことはなかった。しかし、この著のあとがきでも触れられているように、確かに対照的な面を持つ言葉と言える。ごく単純に考えれば「長い」と「短い」、「時間的」と「空間的」…ただ、詩人はこんなことも書いている。


 詩と物語のバランスが、特に実人生の上では大切だと遅まきながら私も気づき始めていて


 従って、この詩集はその点を意識されていると言っていいだろう。作者独特の言葉遊び的な要素も盛り込んではいるが、そこはやはり現代詩のジャンルであり、難解に見える。ただ個人的に本当に今さらだけれども「詩の特徴が繰り返しにあること」を強く認識できた価値は高い。特に「この織物」にある一節が響く。


 「文様は繰り返す/繰り返すがいいのだ/どこまでもいつまでも」
 「木は繰り返す/葉を茂らせ葉を落とし/実を実らせ実を落とし」
 「人も繰り返す/獣も繰り返す/生まれ番い死ぬ/うまあれつうがいしいぬう」



 詩は歌であり、祈りであり…という。それを発する時、人はきっとその場を動かない。しかし人は動かざるを得ない生き物だし、それが物語と呼ばれる姿だ。その「バランス」を考えて生きる人など稀かもしれない。ただこの二つの意識に気づくことは大切だ。そのうえで「私は立ち止まらないよ」と繰り返したい。