すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

乱暴で屈託なく自由な…

2019年08月18日 | 読書
 小説や物語にも種類があるわけだけど、これは何かなと考える。ファンタジー?学園小説?えっ、純文学?この作家は数多く読んでいないが、いつもわからない。しかも新書版だし…。それでいていつも棘のように刺さった感覚を残していく。たぶんそれは、あとがきにある「乱暴さや屈託のなさや自由さ」かと想う。


2019読了80
『ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた』
 (高橋源一郎  集英社新書)


 テーマとなる「くに」(「国」と表記しないことも重要な鍵だ)からふと連想したのは、あの「IS」だった。報道では初め「イスラム国」と言っていたのに「IS」と解読が必要な呼称にしたのは訳があったのだろうか。そんなことが浮かぶほど、今さら「国」とは一体何を指すのか、考えさせられる。土地、言語、人種、政府…。


 「こっき」をつくるところからして象徴的だ。そもそも読者は知識として「国旗」を把握しているのか。「『国旗』には、三種類あるみたいなんだ」という一言に自分も含め驚く人は少なくないだろう。さらに主人公たちは、図形でなければいけないか、一つでなければいけないか、とあれこれ思考し始める。痛快だ。


 都会から離れた場所にある全寮制の小・中学校。この学校では「クラス」でなく「プロジェクト」に入る形になる。やりたいことを選ぶ、なにかを「つくる」ことが主になっている。プロジェクトに入らなくともいい。しばらく自分の好きな事に没頭してそれから加わるもよし。現実へのアンチテーゼとして登場する。


 「ランちゃん」の母はまるで伊坂幸太郎作品に出てくる人物のように格好がいい。「名前のないくに(仮)」をつくったことをネット告知し、リアクションしてきたアイちゃん。そしてその「くに」と国交を結ぼうとしてきた某国の女性。図書館の奥に潜む謎の人物…登場してくるモデルの正体に驚き、納得する小説だった。