すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

吉田修一と11年か

2019年08月30日 | 読書
 新潮社『波』9月号の表紙に「特集 吉田修一の20年」とあった。作家としてのキャリアということだろう。私が知ったのは、そしてのめり込むように読み始めたのは2008年の正月からである。前年に発刊され、絶賛されたあの『悪人』を読んだときからだ。一気に読み、眠りつけなかったことを記してあった


 最近少し控えているが、文庫になったものはほとんど読んでいるはずである。特集ではインタビューや親しい方々のエッセイなどで構成されているが、PR誌らしく新潮社出版の書籍が主となる。『悪人』も『横道世之介』も出てこない。それ抜きに吉田修一を語れない気もするが、改めて新潮社のカラーも感じたりする。


 「新潮文庫の自作を語る」というインタビューの前編に、目に留まった箇所がある。「小説を書く時、土地がいちばん味方になってくれるんですよ。土地は裏切らない、みたいな」。確かにそう語られると、吉田作品は土地の描写が印象的なものが多い。地形や建物まで含めた、その場所の空気をうまく可視化できる人だ。


 ああと思わせられた一節は「物語」と「小説」の違いである。「構成というか仕掛けというか、そこは作家がやらなきゃいけないことだと思うんです。それが込みで小説は小説というものになると僕は考えています」。自分も含め物語なら話し書けるという人は多いかもしれない。しかし小説は高い壁を越えて出来上がる。