和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

目に見えぬ鬼神をも。

2012-03-30 | 古典
古新聞の切り抜きが出てくる。
2011年6月20日読売新聞。
国際欄「世界からエール」に、

「台湾・高雄市の義守大学応用日本語学科が年1回出している短歌・俳句の雑誌が、東日本大震災の被災者らを励ます短歌の特集を組んだ。・・・台湾には、日本統治時代に日本語教育を受けた人や日本語を学ぶ学生を中心に、短歌・俳句の愛好者は多い。特集は『台湾歌壇』のメンバーら62人の120首が掲載され・・・『未曽有なる大震災に見舞はれど秩序乱れぬ大和の民ぞ』『天災に負けずくじけずわが愛友よ涙も見せず鬼神をば泣かす』など、耐え抜く被災者への感動を詠んだものが多い。福島第一原発の事故現場で働く作業員への称賛の歌も。『原子炉の修理に赴く男の子らの【後を頼む】に涙止まらず』『福島の身を顧みず原発に去りし技師には妻もあるらん』『大正生まれ昭和育ちの我ならば日本大震災にこころのしずむ』と日本語世代ならではの歌も寄せられた。・・・」

ここに『天災に負けずくじけずわが愛友よ涙も見せず鬼神をば泣かす』という一首があったのでした。「鬼神」といえば、古今和歌集の仮名序が思い浮かびます。

「・・・・力をも入れずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛(たけ)き武士(もののふ)の心をもなぐさむるは、歌なり。・・・」


さてっと、ここで話題をかえます。
「山片蟠桃賞の軌跡 1982-1991」の第一回受章講演でドナルド・キーン氏が語ったなかに

「・・その時までは英米でいちばん権威のある百科事典ブリタニカが、初めて日本文学に相当のページ数をさくことになり、私に日本文学総論を頼んできました。日本の作家十人を選び、ブリタニカに日本の文学者のことを入れることになりました。なかなか楽しい話でしたが、紀貫之のことを書いたために、その時までに載っていた誰かが落伍しなければなりませんでした。ページ数が決まっているのですから。そこで、だれが落伍したかというと、私の大嫌いなアメリカの海軍大将だったんです。・・・」

この講演のあとに、谷沢永一氏が「お祝いのことば」を語っているのですが、
そのはじまりは、この紀貫之を取り上げることからはじまっておりました。
ということで谷沢氏のはじまりの言葉を引用。

「さきほどキーン先生が、百科事典のために日本の文学者の中から十名をピックアップせよと言われて、紀貫之の名をあげたとおっしゃいました。これはたいへんな見識でございまして、その当時、同時代の日本の国文学者を一堂に集めて、そして日本文学ベストテンをあげろといった場合に、紀貫之をあげるというへそまがりはほとんどいなかったのではないでしょうか。しかし、『古今集』というものがどれほど日本の文学を規定し、大切な要素であったかということが、昭和40年代から50年代にかけまして、多くの俊才の研究の結果、大岡信さんの『紀貫之』が出たりしたこともありまして、おそまきながら日本の国文学者の気づくところとなりました。・・・キーン先生がさきに見抜いておられたということをいま承りまして、非常に感動したわけでございます。・・・」


さってと、わたしはこれからどうしましょう(笑)。
「古今和歌集」岩波文庫
大岡信著「紀貫之」
これにチャレンジしたい。
欲張るならば、
窪田空穂全集にある「古今和歌集評釈」。
それから、たしか谷沢永一氏がお薦めだったところの
藤井高尚の「古今和歌集新釈」まで視野にはいれば。
うん。挫折しないように、ぼちぼちと。

コメント
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