堀田善衛著「方丈記私記」を本棚からとりだす。
うん。東日本大震災のあとに読んで以来。
「私が以下に語ろうとしているのは、実を言えば、
われわれの古典の一つである鴨長明『方丈記』の
鑑賞でも、また、解釈、でもない。それは、私の、経験なのだ。」
本のはじまりは、こうでした。
うん。あとは中頃と、最後とを引用してみます。
第四章のはじまりは
「3月10日の東京大空襲から、同月24日・・までの短い期間を、
私はほとんど集中的に方丈記を読んですごしたものであった。
・・とはいうものの、この方丈記なるもの、字数にして9000字あまり、
400字詰の原稿用紙に書き写してみても、せいぜい22枚強くらい
の短いものでしかない。だから私はほとんどこれを暗誦出来るほどに、
読みかえし読みかえしたわけであった。
・・・戦禍に遭逢してのわれわれ日本人民の処し方、
精神的、内面的な処し方についての考察に、何か
根源的に資してくれるものがここにある、またその
処し方を解き明すためのよすがとなるものがある、
と感じたからであった。また、現実の戦禍に遭ってみて、
ここに、方丈記に記述されてある、大風、火災、飢え、地震
などの災殃の描写が、実に、読む方としては凄然とさせられる
ほどの的確さをそなえていることに深くうたれたからでもあった。
・・・・・・・・」
うん。最後は、第十章から引用。源実朝の歌を引用している箇所。
「
世の中は鏡にうつる影にあれやあるにもあらず無きにもあらず
これは・・実朝の歌であるが、要するにどれもこれも、
何か巨大なものにぶつかっての、わけもわからぬ歌である。
わけはわからぬが、実朝、と言わなくても、とにかくこの歌の
作者が、どう処理もなんとも出来がたい巨大な不幸に
ぶつかっていることだけは、よくわかる歌である。
・・・・戦時中に、・・・私は・・・
何度も何度もこれらの歌を思い出して口の端にのせた
ことを告白しなければならないであろう。・・・・」
うん。私の引用はここまで。