和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

薬用植物画の小磯良平。

2021-04-23 | 枝葉末節
時には、古本で、楽しい物が手にはいります。

薬用植物画(複製)3点プレゼント。そのプレゼント品でした。
武田薬品のアリナミンを記念してのもののようです。
もうすこし詳しく。

「このアリナミン発売30年を記念し、過般新聞紙上で
小磯良平画伯による薬用植物画(複製)プレゼントを発表しました
ところ、早々とお申込みいただき有難うございました。・・・
このたび、厳正な抽せんを行いました結果、あなた様が当せん
されましたので、同封お届け申しあげます。」

「本薬用植物画は、弊社のPR誌『武田薬報』の表紙に
昭和31年から12年余にわたり掲載されたもので、
その作品150点が『薬用植物画譜』として刊行されましたが、
芸術作品としては勿論のこと、植物学的にも高い評価を得た
ものでございます。ここもとお届けの3点は、その中から
特に選びだしたものでございます。
ご鑑賞賜りますれば幸いでございます。・・・」

とあり、3点は
「はぜのき」「くちなし」「れんぎょう」が1枚ずつありました。

それはそうと、
杉本秀太郎著「絵 隠された意味」(平凡社・1988年)に
『告白』と題してはじまる5ページの文があります。
はじまりは

「京都の修学院に曼珠院というお寺がある。・・・

もう二十数年も昔になるが、3月のある晴れた日、
曼珠院の土塀ぞいの小道から木戸を押し開けて斜面のほうに
入ってみたことがあった。たよりない木戸に打ちつけられていた
門札によって、これが武田薬品の薬草園だと気づいたので
 ・・・・・・・
去年の春、まったくひさしぶりに修学院に行って、
古なじみの薬草園のあたりを歩いた。いまは整備も警固も行きとどき、
昔のように無断で出入りはもう出来そうもなかった。・・・・」

まあ、こんな風にはじまり、小磯良平画の『薬用植物画譜』へと
言及されていきます。ここでは短文の最後から引用。

「私は正直なところ、『新制作』の大長老である
この洋画家の油彩画を見て感動したおぼえがない。
冒険を好まぬ、温良従順なひとりの画工であればこそ、
この人は植物図譜の描き手に適していたのかと思われる。

武田薬品の薬草園からアトリエに持ちこまれる植物を写生しながら、
この人は画工たるの快楽と画工たるの痛恨とを、百五十点の
精細な水彩画にこめたのではなかったか。・・・・」(~p94)

ちなみに、この本には、植物図譜のなかの『葛』(p93)が
掲載されておりました。それについては

「薬用植物の図譜のために描かれた植物図には、
普通の植物図鑑の図とはちがうところがある。
薬用に供される部分が特に目立つように描かれ
なければならないからである。・・・・・

小磯良平が薬用植物として葛を描いたとき、
ふてぶてしいばかりの葛の根を特に入念に
描いているのは、もっともな処置ということになる。」

杉本氏は、小磯画伯について
『油彩画を見て感動したおぼえがない』と、正直に書いておりました。
そんな視点から見れば、画伯が描いた女性よりも、ここの植物の方が
ひとりの個性として眺められるのかもしれない。

女性と植物といえば、『絵 隠された意味』に
京都国立博物館所蔵の絵襖を見に行く場面がありました。
最後にそこを引用。

「今年の夏も例年どおり、
吉日をえらんで屏風を見に出かけると、ひとりの先客があった。
絵の勉強で京都に滞在しているオーストラリアの女性。

『この草花の絵は、好きですか』

『ええ、とってもキレイ』日本語が話せる。

『私はこの屏風に描かれている草花は、一つ一つがみな、
女のひとの肖像として描かれていると思ってながめるのですが、
あなたは』とたずねてみた。

『それは、わたしには分からない。
どうしてこれが女のひとなの。これ、ハギでしょう。
これは何。ああそうね、シューカイドー。そして・・・・』

『フジバカマ、クズ、オバナ、キキョウ、オミナエシ。
キクもあるし、ナナカマド、サルトリイバラもある』

『どうしてこれがみな、女のひとですか。
やっぱり分からない』

私は古今集の歌を一首、教えてあげた――

『宮城野のもとあらの小萩つゆを重み風を待つごと
 君をこそ待て。まさにこれ、屏風の萩の風情ですね』

小首をかしげて
『やっぱり分からない』 ・・・・・」(p19~p21)

うん。わたしにも分らないのですが、
それでも、小磯良平の女性画よりも、
薬用植物画の方へ、より惹かれるものがあります。
ということで、このプレゼント品を、
飽きるまで、壁に貼っておこうかなあ。
コメント (2)
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