男が酒を飲むときの作法は民族ごと伝統的に決まっているようです。そしてその作法は地域によっても違います。それを無視して飲むと顰蹙を買います。我々日本人が宴会で燗をつけた日本酒を飲む時は、小さな杯で受けて飲みます。自分で杯に酒を注ぐのは作法に反しています。あくまでも他人に勧めて貰い、注いで貰うのです。少なくとも宴会の始めの間は皆この作法を守ります。
南ドイツのローテンブルグでのワインを飲む時の作法も慣れるまではかなり面倒なものでした。ガストフという伝統的な居酒屋ではまずコートの脱ぎ方、壁の釘へかけるときの動作を慎重にします。悠然と重々しくしなければなりません。テーブルに案内されたらゆっくりとワインのボトルを注文します。知ったかぶりをしないで、その地方でブドウ酒の出来の良かった年を教えて貰い、それを注文します。主人がブドウ酒の瓶をお盆に捧げて持って来ます。程良く冷やしてあります。コルクの栓を抜いてワイングラスに少しだけ注いでくれます。
そこからが難しいのです。少し飲み、その味について必ず褒め言葉をいいます。「ウン、辛口ながらブドウの甘味と香りがほのかに有って良い酒です」とか言うと主人は安心したようにグラスになみなみと注いでくれます。兎に角一言、気のきいたお世辞を言うのがその地方の作法なのです。これはマナーであり、例え不味い場合でもそれを言わないのが、掟なのです。その事は2,3杯飲んだあとで主人だけへこっそり言えば良いのです。
これを的確に行うと、その後は主人がいつも愛想良くなります。毎回、ボトルのワインでは体にも良くないのでビールを飲みます。その土地の地ビールを主人に教わり美味しそうに飲みほします。それも作法です。不味かったら他のビールを注文すれば良いのですが、始めは地ビールへ敬意を表します。これは何処の国へ行っても同じで、地元のワインやビールへ敬意を表するのが作法です。ヨーロッパ大陸ではワインかビールを主に飲み、ウイスキーはあまり飲みません。従ってビールを小奇麗に勢い良く飲む作法と、ワインを飲む作法さえ守れば楽しく過ごすことが出来ます。ところが北欧に行くとサウナと赤いコケモモで香りを付けたウオッカがセットになって出て来ます。風呂上がりの一杯としてコケモモ入りのウオッカを飲み合うのです。これには作法というものがありません。しかし酔いが回り易いので絶対にウオッカを何杯も飲んではいけません。一杯か二杯で止めなければ大変なことになります。
中国や韓国には伝統的で優雅な杯の捧げ方と上品な飲み方の作法があります。乾杯、乾杯と飲み干すのも礼儀であり、作法です。しかし、乾杯は2、3回で充分です。それ以上は随意、随意と言って微笑めば、それ以上勧めません。それを無理して乾杯、乾杯を続けてはいけません。
さて、なじみ深いアメリカはどうでしょうか?それがアメリカでは酒を飲む伝統的な作法がないのです。カンビールはグラスに注がずにカンからそのまま直接飲みます。ビンビールもビンで飲みます。歩きながらでも飲みます。勿論高級なレストランではグラスに注いでくれますが。バーへ行けばカウンターでお金を先に払います。と、バーボンの入った部厚いグラスが滑ってききます。バーテンダーが熟練の技を自慢しているようです。
アメリカは伝統とか作法を嫌う文化です。そのような古いヨーロッパが嫌いな人々が移民してくることが多いのです。
酒を飲む作法はその民族の文化の一部です。酒を飲む折々に、色々な国の飲み方を思い出してその生活文化を楽しんでいます。皆様は酒を飲む時はどのようにしてお飲みになるでしょうか?
(下の写真はローテンブルグです)
今日も皆様のご健康と平和をお祈り致します。藤山杜人