Don't Kill the Earth

地球環境を愛する平凡な一市民が、つれづれなるままに環境問題や日常生活のあれやこれやを綴ったブログです

Bの力

2021年09月06日 06時30分18秒 | Weblog
ドクター塚本  白衣を着ない医者のひとり言 No.41 森鴎外のうち立てた「兵食論」
 「・・・高木兼寛のN:Cの比率が脚気の原因だとする説は明らかに誤りであり、それを立派に論破した鴎外の実験的・帰納的研究の論理は正しかったし、彼は自分の論文に絶大な自信を持っていました。そして一旦立てた自説への執着、他人の批判を許さない独尊性、さらに持って生まれた彼の負けず嫌いの気性が、「鴎外最大の悲劇」の根源となっていると坂内正は決めつけています。
 日露戦争における陸海軍の脚気統計を示すと歴然としています。「医海時報」(明治41年10月)に準拠した坂内正の調査によると、陸軍の全傷病者35万2千7百余名中、内輪に見て21万千6百余名、他病に算入されている者を含めて推定すると、「少なくとも25万」、戦病死者3万7千2百余名中脚気によるもの2万7千8百余名(約75%)、参戦した陸軍総兵力約百8万8千、戦死者4万6千4百余名に照らしても、「脚気惨禍」と呼んでもおかしくない状況でした。昭和になって公刊された「陸軍軍医学校50年史」でも、その実数は糊塗されながらも、「古来東西ノ戦役中殆ト類ヲ見サル所ナリ」と書かざるを得ないような惨状だったのです。
 一方の海軍省医務局の発表によると、日露戦争中の脚気患者は87名、同病による支社は3名でした。
 彼の論文がいかに正しくとも、脚気の予防も治療もできなかったことが明々白々です。鴎外の非現実的な原理原則主義が実践的対策の機敏さを鈍らせて、高木兼寛の経験的事実尊重のイギリス衛生学に敗北したことは明らかです。


 脚気の予防と治療に成功した海軍に対し、森鴎外流の「兵食論」=白米至上主義に毒されていた陸軍では、脚気による傷病者、また戦死者は多数にのぼっていた。
 ビタミンB1の不足が脚気の原因であることが分からなくとも、海軍の軍医たちは現場の観察から食事に原因があることを見抜き、他方、「原理原則主義」の鴎外ら陸軍の軍医たちにはそれが出来なかった。
 当時は「ビタミン」という概念がなかったのだから、致し方ないという見方が出来るかもしれないが、おそらくこれは鴎外にとっては人生最大の汚点ではないかと思われる。
 鴎外型の「理論一辺倒」ではない、経験主義的な「根拠に基づく医療」の方が、未知の要素が多い新型コロナ問題でも有効なのではないかと思うのである。
 
コメント
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