■舞鶴基地を出港
舞鶴展示訓練とは、舞鶴地方総監部が、その年の練成状況を一般に展示するべく行われている行事である。2007年7月28日、日本海における舞鶴展示訓練に向けて、海上自衛隊舞鶴基地を展示訓練参加部隊が出港した。
舞鶴地方隊の防衛警備担当区は、日本海沿岸。原子力発電所が数多く稼動しており、石油備蓄基地など、日本のアキレス腱というべき施設が点在している一方で、対岸にロシア、北朝鮮という脅威を前に、沿岸警備を中枢とした防衛警備、災害派遣を担当している。日本海は広大だ、他方で、人口密度は必ずしも高くは無く、その観点から防衛上の脆弱性を抱えているわけで、その地域を護る舞鶴地方隊の任務も険しいが成し遂げなければ成らない。
その舞鶴地方隊の展示訓練を、護衛艦「はるな」艦上から観覧する機会に恵まれた。舞鶴基地にて手続きをすませ、『はるな』艦上に。いよいよ出港作業が始まると、その様子をみるべくヘリコプター格納庫上に移動する。朝靄が晴れようとする早朝の北吸桟橋にて、同様に出港作業を進める艦艇の姿をみる。
出港作業のために忙しく動き回るタグボート。舞鶴地方隊の港務隊に所属する曳船だ。
北吸桟橋は、舞鶴湾の奥に位置するため、入港の際には回頭する、いわゆる“北吸の槍回し”が行われるが、これを行うのも曳船の任務である。艦上からその様子を見ていると俯瞰する風景とともに潮風が磯の香りを運んでくる、うむ、海に来たのだ、という印象。
『はるな』もいよいよ出港。ヘリコプター護衛艦『はるな』を象徴する背負い式に二門搭載された5インチ速射砲、その向こうにみえる艦首では、出港作業が行われる。舷側でも各所で作業が行われている。海上自衛隊というと、イージス艦を筆頭とする護衛艦や潜水艦、航空機を思い浮かべるが、それを動かすのは人であり、仮に装備だけではどこかの国の海軍のように、接岸作業に時間が掛かりすぎたり、機関が弾けたりするわけだ。
舞鶴基地の周囲は、天橋立へ続く山陰の美しい風景に囲まれている。舞鶴を訪れたことの無い皆さんにも、一度山陰の風景、天橋立への往路にでもこの街を訪れることをお薦めしたい。舞鶴という言葉がその通り、鶴の舞うような峰々と入り組んだ湾。かつて、ここに鎮守府を置くにあたり考えられた戦略的防備となる地形は、平和時には絶景を見るものに分け隔てなく供じてくれる。
日本海に向け舞鶴基地を出港する途上、最新鋭のイージス護衛艦『あたご』を望見する。満載排水量で10000㌧に達した(世界の艦船参照)という本艦は、第二次世界大戦以来久々に日本が手にした1万㌧以上の水上戦闘艦である。前部VLSを『こんごう』型のものよりも大型化したことで、上部構造物が中心あたりに位置する設計を採っており、見た目でもバランスの取れたスマートな艦容である。
護衛艦『せんだい』が出港する。河川名は、旧海軍では軽巡洋艦に付けられていたのだが、海上自衛隊では地方隊用の小型護衛艦に用いられている。ただ、海上自衛隊の地方隊用護衛艦の建造は1989年度計画艦の『とね』『ちくま』を最後に終了し、その後は護衛艦隊用の汎用護衛艦が充てられていた。しかし、河川名を冠した艦艇が、そのうち異なるかたちで再び建造されるのでは、と考えたりもしている。
『せんだい』は満載排水量で2900㌧。対艦ミサイルを搭載したガスタービン艦でヘリコプターこそ搭載しないが対潜装備はアスロックを装備するなどして充実、各国の大型フリゲイトが3000~4000㌧台であるので、2900㌧の『せんだい』は決して小型戦闘艦とはいえないのだが、10000㌧の『あたご』と比べると、親子ほどの差というべきか、やはり小柄である。
舞鶴飛行場の前を通過。『はるな』艦載機であるSH-60Jもこの舞鶴飛行場で運用されている。この舞鶴飛行場では、この日、ちびっこヤングフェスタが行われており、飛行場のSH-60J哨戒ヘリコプターに加えて、MH-53掃海ヘリコプターや陸上自衛隊のヘリコプターが駐機している。朝早いこともあってか、ちびヤン会場の人出はまだ疎らである。日曜日の展示訓練に応募、土曜日は、ちびヤンを見学しつつ、入出港を撮影、という方法を行った方もいるようだ。
舞鶴飛行場の向こうには、イージス護衛艦『みょうこう』が、『はるな』に続いて出港する様子が見て取れる。望遠レンズの圧縮効果もあるのだろうが、それでも飛行場と比べられるその大きさは驚かされる。満載排水量は9500㌧、『みょうこう』『あたご』から成る第63護衛隊は、この時点で日本最強の護衛隊といえる。
舞鶴湾に面した家々、漁業を生業としているのだろうか、一夏、研究書と資料を持ち込んで暮らしてみたいくらいだ。そして、アウトドアに向いた入り江では、家族連れや学生がキャンプを開いていた。フィッシングに向かう何隻ものプレジャーボートや漁船とお互い手を振りながら行き違い、舞鶴の入り組んだ水道を越えて、舞鶴湾へ、そして日本海の大海原が開けてきたが、さらに外海へ。いよいよ、舞鶴展示訓練が、はじまる。
HARUNA
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