■“サントリーカーブ”と“コモンズの悲劇”
東海道本線屈指の名撮影地として、多くの鉄道雑誌などで紹介されている山崎、一般にはサントリー山崎蒸留所にちなんでサントリーカーブとして親しまれている。小生も今年3月に初めて展開し、寝台特急「なは・あかつき」の長大な編成を撮影した。
東海道本線でも多くの撮影地があるのだが、この山崎が注目される背景に、良好な勾配とともに美しい編成写真が撮影可能、というだけではなく歴史的な背景がある。京都~大阪間をゆく特急に加え、新幹線開通前の東京~大阪直通特急「こだま」から、九州ブルートレインなど多くの“時代の流れ”を見守ってきた撮影地という背景があるようとのこと。
ただし、年々、鉄道写真愛好家が増え、結果的に残念ながら、少数のマナーの悪い方がクローズアップされるに至っている。伝聞した範囲内ではあるが、廃止間近の列車や団体専用列車、臨時列車が運行される日などは多くのカメラが並べられ、よりよい撮影環境を求めて、ある種危険な状況も生じているとのことだ。
こうした背景があってか、今月11日に撮影へ足を運んだ際、高さ180㌢程度の安全フェンスが設置されている事に気付いた。180㌢というと、撮影が難しい高さである。安全フェンスは、サントリーカーブ全域に渡って設置されており、特に複々線の一番外周を走る上り線の特急、貨物列車、新快速の撮影は非常に難しい状況となっている。フェンスに足をかけたり、もたれたりせずとも角度的になんとか撮影できるポイントも若干あるが、面積としては先着極数名という印象だ。
普通列車や快速が運行される複々線内側の列車に関しては、カメラ構図の中でフェンスに掛からず撮影することができるが、脚立が無ければ外周部分を走る特急などの撮影は難しい。フェンスは従来設置されていたガードレールよりも線路側に配置されているので、もし、多くの人数が特定の列車撮影の為に同時にもたれ掛った場合、フェンスごと線路側に転倒するのでは?という印象も受けてしまう。
二段式程度の脚立を装備していれば、多分、問題なく撮影できるのでは、と考えるのだが、何分脚立は嵩張り、特に山崎駅までの道程、鉄道移動をされる方に脚立持参というのはラッシュ時や混雑する時間帯には周囲に迷惑をかけることにもなるので考えることも必要になるだろう。なによりも、撮影場所が非常に限られてしまったことから、いわゆる場所取りの際の混乱が心配である。
京都方面から大阪方面に向かう列車の撮影は比較的良好な環境である。理由は、サントリーカーブが線路に並行してゆるやかな上り道路上にあるため、大阪方向から来る列車は、上りとともに高くなるフェンスに鉄道車両が重なってしまう為で、逆に下り道を見下ろす格好になる京都方向からの列車はフェンスがあっても角度が広くとれ、撮影が容易なのだ。
しかしながら安全フェンスの設置地域は広範囲に及んでいる。フェンス設置の理由は、一部の鉄道写真愛好家による常軌を逸した行為だけにあると断言することは出来ないものの(尼崎鉄道事故の二次被害の教訓からという話があるようだが、このフェンスでは、脱線車両を受け止められるとは考えにくい)、ガードレールにもたれ掛り上の部分に多くの錆が生じていることから分かるように、身を乗り出した写真撮影者が列車運行に大きな支障を及ぼす危険性を防止する役割に重点を置いたことは想像に難くない。
撮影地での、これ以上列車運行への支障という危惧を与えない為のマナーを向上方法、とりあえずマナーの悪い人を注意すれば、場合によっては喧嘩になる可能性がある(航空祭でも見かけるような)。究極の対処法としては、先日小生がダイヤ改正直前のパノラマカー撮影とともに行ったように、人が集中する“名撮影地”は極力利用しない(人が集まる日は、山崎以外で撮る)方策が最良、ということか。
この山崎の状況を説明する上で“コモンズの悲劇”を挙げたい。経済学の初歩に出てくる概念であるが、牧草地や河川など、全ての人に無料で開かれたコモンズ(共有地)では、例えばより多くの利益を獲得する為に先を争って牧草地には放牧し、河川には灌漑取水口を取り付けたり、排水溝を設ける。多くの集団の中の数名が、これによって生じる破局(放牧が多すぎて牧草地の荒廃したり、河川の枯渇、河川の汚染)を予測しながらも、自分がやらなくとも他者はその“行為”を続けるだろうから、結局破局が訪れるということ。
撮影地の割り込みはどこでも多く見かけて顰蹙を買っているが、駅での撮影で、長時間露光用にラッシュ時の混雑するホームに三脚を設置したり、停車する特急電車の先頭車輌に夜間ということでフラッシュを焚くという状況も、撮影地という一種共有地にはマイナスである。無論、気付く人には非難するつもりはないが、それにしてもこれは山崎に限ったことではないだろう事から、コモンズの悲劇を避ける方法は無いものか、考える必要はあるやも。
コモンズの悲劇を防ぐ為には、例えば共有地を私有化し、利用を制限出来る状況を構築して、破局的な状況が生じないように“管理”することが、その方法として知られている。しかし、これを山崎サントリーカーブに当て嵌めると、対処法は非常に明快で簡単なのだが、その実行は難しい。安全フェンス設置により、撮影は非常に難しくなってしまったが、個々人の心がけによりこれ以上マナーが悪化しないようにする、のが気休めだが、現実的な“名撮影地の保存方法”なのだろうか。
HARUNA
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