■09年度大綱改訂:方面総監部から陸上総隊へ
22日付読売新聞によれば、7月21日、防衛省の発表として現在、北部、東北、東部、中部、西部に方面隊総監部を置き、地域の防衛警備及び災害派遣に当たっている方面総監部制度を廃止する改編を検討していることが明らかになった。
陸上自衛隊部内では現行の方面隊機構が有する独立性や地域性などの点を重視する意見も大きく、更に指揮官養成の観点から、総監や方面隊幕僚という機構を維持することで、防衛行政を掌る陸上幕僚監部と第一線とを繋ぐ方面総監部という相互補完関係は重要性も認識される。中央と末端の間に方面隊という調整機構を置くことで、逆に指揮系統の動脈硬化を防いでいるのでは、ということもできる。
また、陸上自衛隊の方面隊直轄部隊は、米軍やロシア軍などの軍団直轄支援部隊と比べれば規模としては限界があるものの、ヘリコプターや多連装ロケットシステムなど、比較的充実した装備を有しており、同時に機動力に限界があるこれら装備を、一種、地域ごとに配備していることで、やはり限界がある師団・旅団の空中機動能力や、全般支援火力を補完しているという意味では非常に重要な役割を有している。
方面隊の責務は重く、また重要である。方面総監部は、陸将が務める方面総監の指揮により、隷下にある戦闘を所管する師団・旅団、そしてその師団・旅団の任務を支援する施設団や方面高射特科部隊、方面特科部隊、方面航空隊などを統括し、方面における任務遂行を担う目的がある。
今回の方面総監部廃止に関する検討は、陸上自衛隊の師団・旅団及び方面直轄部隊、及び中央即応集団を初めとする防衛大臣直轄部隊を総合的に指揮する陸上総隊の新設により、指揮系統を簡略化することが目的とされている。同時に中央即応集団の格上げも検討されているという。
指揮系統の一元化を目指した陸上自衛隊の組織改編であるが、これはある程度海上航空自衛隊でも念頭に置かれているものの、ここまで中間指揮系統を簡略化してしまう編成ではない。例えば海上自衛隊は、機動運用を前提とした自衛艦隊と、沿岸警備及び基地機能維持を任務とする五地方総監部(横須賀・佐世保・舞鶴・大湊)に二分化し任務を分けている。
自衛艦隊には護衛艦隊、航空集団、潜水艦隊などの中間機構を有し、戦闘所管部隊である護衛隊群や潜水隊群を指揮している。地方総監部は、今年3月の改編により、地方隊隷下にある護衛艦部隊が護衛艦隊に統合されたものの、今を以て基地機能維持や掃海艇、ミサイル艇などによる沿岸警備は任務に含まれている。
航空自衛隊では、防空戦闘及び警戒管制を担う航空総隊司令官に一元化した指揮権を与えつつ、隷下に北部航空方面隊・中部航空方面隊・西部航空方面隊・南西航空混成団を置いている。航空方面隊は隷下に航空団を有し、航空団が要撃戦闘を展開、その航空団の要撃管制を行い、且つ補給により作戦能力を維持させることが、航空方面隊の任務である。
22日付読売新聞の記事では、陸上総隊を、海上自衛隊における自衛艦隊や航空自衛隊における航空総隊のような組織、と称しているが、これらの海上自衛隊や航空自衛隊の機構は、やはり陸上自衛隊の方面総監部にあたる中間の機構を有しているのは以上の通りだ。
陸上自衛隊の改編において当初、陸上総隊という名称が出された際には、陸上総隊を5方面総監部の上に置きつつ、方面総監部を隷下に有するという方式が検討されているとみられていたが、今回は、市ヶ谷(朝霞?)から直接師団・旅団に命令が届く方式が採用されようとしている。施設団や方面航空隊、方面特科部隊、高射特科部隊、方面後方支援隊などの部隊は、この改編は行われれば陸上総隊直轄部隊に数えられるということなのだろうか。
指揮系統の簡略化、というと必要な命令が直接伝わるということで、効率的になった印象を持たれるかもしれないが、これには一考の余地がある。陸上自衛隊をはじめ、軍事機構は任務遂行に際して、膨大な前方、後方など各種ロジスティクスに支えられて任務を遂行する。
一般に考えられる弾薬、燃料、消耗機器、糧食、給水という支援業務はもちろん、建設工兵(方面直轄施設部隊)が行う兵站線維持や中射程の地対空ミサイルによる後方策源地防護などなど、師団・旅団では遂行不可能であり、しかしながら重要性は大きい任務もあり、いまをもって単一の指揮系統によって指揮することは難しい。米軍が軍団編成を維持していることも、補給などの業務を一元化することの難しさを端的に示しているのではないか。
無論、現在の方面隊機構には問題点がないとは言えない。例えば、北部方面隊をみると方面直轄部隊として多数の地対艦ミサイルやMLRSを運用する特科団、そして高射特科団や戦車群など充実した直轄部隊を有しているのに対して、中部方面隊のように、方面直轄の特科部隊を有さない方面隊もある。方面隊の後方支援能力には大きな差異があり、他方で、脅威正面が多様化していることから、かならずしもこれまでの防衛計画が想定していた重要地域に脅威が及ぶとは限らないという環境の変化がある。
更に付け加えれば、予算的な面も背景にあるのではないか。AH-64D戦闘ヘリコプターが価格高騰により調達が中止となる事例を挙げるように、最高性能を目指せば新装備の調達価格は順次倍加しており、必ずしも必要定数を充足させられるとは限らない。思い切って直轄部隊の母数を削減すれば、必要調達を低く押さえる事が出来るのでは、という背景もあるのではないか。
他方で、中間機構として方面総監部は、やはり必要である。無論、対戦車ヘリコプター隊や長射程化が見込まれる次期地対艦ミサイルなどの充足や運用を考えると、全国的な展開を前提として、一部は陸上総隊に移管し統括した運用を行う必要があるのではないかとは、いえる。
しかしながら、ロジスティクスなどの面では、地域性が必要となり、加えて後方のデポや弾薬補給処、燃料処などは移動が困難な策源地である。これらを基点とした地誌作成など、戦術研究は、方面隊機構に頼るところが大きく、簡単に廃止を検討というのは無責任なのではないか、と考える次第だ。
ただし、陸上総隊の新設には賛成である。弾道ミサイルに対する脅威など、個々の組織に区分しては難しい問題がある。場合によっては更に進んだ統合運用を考え陸海空自衛隊の上部組織として防衛軍を新設し、防衛軍陸上自衛隊、防衛軍海上自衛隊、防衛軍航空自衛隊として統合運用を更に進めたり、陸海空を統括する本土防衛司令部を新設し、自衛艦隊や中央即応集団などの国際貢献業務を例えば太平洋防衛司令部というようなかたちで区分するという方策も思い浮かぶ。
陸上総隊を新編するとしても、方面総監部という制度は、無論、数などの再編は別としても、機能の存続を考えるべきなのではないかと考える。もっとも、こういった極端な案が出されるということで、一種別の目的があるのではないかと考えるのも自然だ。つまり、方面隊廃止というのは、一種のアドバルーンであり、妥当な結果に落ち着くのでは、とは考えているのだが、どうだろうか。
HARUNA
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