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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

特集【第24回参議院選挙と安全保障】第七回・・・公約の矛盾、TPP食糧安全保障と反原発政策

2016-07-07 22:52:18 | 北大路機関特別企画
■公約矛盾見極める視点が必要
 公約の矛盾はないか、それはは未熟な政党であることを示す具体例です、そこでTPP食糧安全保障と反原発政策という視点から見てみましょう。

 今回の参議院選挙において経済政策や安全保障協力法制等の筆頭の論点と共にならんで一つの論点となっているのはTPP環太平洋包括協定、そして原子力問題についてです。ただ、ここで考えなければならないのは政策提案と公約に矛盾点が無いか、という事です。政策矛盾の最たる事例が減税と歳出拡大というものですが、この他にもTPPと原子力問題などはその一例と云えます。実のところ、この二つの要素はシナジー効果をもつ相関要素があり、一方の施策を具現化した場合、一定以上の政策を採ることでもう一方の政策へスピルオーバーし、方向性を確定してしまう分野でもあるのです。

 公約に矛盾はないか。TPP反対の議論は野党連合を中心に多くみられる施策で、交渉過程が不透明である、としたもの、食料安全保障の観点から反対としたもの等が挙げられます。交渉過程が不透明であるとの指摘ですが、これについてはTPP枠組みの交渉プロセス画定の時点で、参画を不透明としていました時代の政権が責を負うものですので、現在野党となっている旧与党は、果たして合意形成までの交渉を秘匿するという枠組み形成を放置した訳ですので、今更不透明性を事由に反対することは、矛盾しているでしょう。

 政策の相互関係に配慮して公約を立てる事が出来ない政党には政権運営能力はありません、政治家ではなく理想化の集まりであり実務へ反映できない為です。この部分で、食料安全保障ですが、シーレーンが確実に確保されるのであれば、実のところ問題となりません、たとえばイギリスは第二次世界大戦中において食糧自給率が三割程度でしかなく、このためシーレーン防衛が国家存続を左右する重要要件となりました。しかし、大量の護衛空母、護衛駆逐艦を建造し、アメリカからも大量に輸入、その費用支払いは実に1997年までかかったという国費を投じてですが、シーレーン防衛に成功、食糧自給率は防衛力によって解決できることを示しました。

 TPP反対に食料自給率を呈示している事例では、民進党は聖域とされた主要な農産品5項目の交渉対象化を理由に反対していますし、共産党は関税撤廃と農産物輸入の急増が食料自給率低下させるとの視点から反対、社民党も農産物重要5項目の3割が無関税となる点が食料自給率の観点から反対しています。ただ、原子力政策では共産党は即時原発ゼロと再稼働反対を、社民党も原発稼働を直ちにゼロにとの主張、民進党だけは過去の2030年代原発稼働ゼロ政策を民主党から民進党へ転換した際、原発に頼らない社会を目指すとしました。

 有権者に受けが良い政策だけを列挙するだけでは、実現する事は出来ない、若しくは実現する事で失われる他の利益の方が大きい。日本も海上防衛力を一定規模の水準で整備し、シーレーン防衛を持続して遂行できるならば、食糧自給率は問題となりません、が、シーレーン防衛の実行には海洋哨戒航空機、水上戦闘艦、またシーレーンに直接航空攻撃が加えられるならば航空防衛力が重要となります、この部分で食糧自給率を高める施策をとるならば、防衛力の増強に歯止めをかけられるとの視点は成り立つかもしれません、が、このシーレーン防衛は食料安全保障と同時にエネルギー安全保障と密接な相関関係を有していることを忘れるべきではありません。

 二つの相反する政策を並列させてはそもそも実現させるつもりがないか、その矛盾転移気付かない集団である、若しくは党内の意見調整すらままならない集団だ、といえるでしょう。ここで視点を戻しますと、エネルギー安全保障、我が国は国内に有力な石油資源を発する油田をもちませんし、天然ガスについては南西諸島近海に埋蔵が1970年代に確認されましたが、その直後から大陸からの軍事圧力にさらされることとなり、この天然ガス開発には親中国政策を掲げた民主党政権下でも具体化しませんでした。

 このため、現実的に可能なエネルギー持久政策は、ととわれれば、ウラン燃料と再生核燃料であるMOX燃料を用いる原子力政策以外は有効ではなく、再生可能エネルギーなどは国内の需要を完全に担うには現在の発電能力では全く現実的ではないことが挙げられ、その上でエネルギーを自給自足するには原子力政策を暫定的でも推進せざるを得ないことに気づかされる。再生可能エネルギーの能力向上に期待したいところですが、これを現実の政策として受け入れられるかと問われれば、巨大駅階段に振動発電装置、全世帯風呂釜を発電用に転用、あまり現実的ではない施策を集積していますので、短期的な政策として反原発を呈示する政党、例えば今世紀中の代替エネルギー開発と次世紀までの原発廃止、というような施策ではなく、即座の停止、とされますと説得力ある代案を出すべきでしょう。

 現実問題としまして、エネルギー安全保障政策の裏付けなくして食糧自給率を完全自給可能となった場合でも、エネルギーが枯渇すれば、その食料を都市部など人口密集地へ輸送する手段がありません、石炭燃料を再度開発し輸送用に蒸気機関車を整備稼働状況へ復帰、牛馬の輸送用への転用、農村部への大規模食料疎開、どれも現実的施策とはなりません、シーレーン防衛の維持により食糧自給率へ固執せずとも国家を維持できる可能性は開けるのですが、同時にシーレーン防衛を放棄し食糧自給に邁進した場合でもその食糧を輸送するにはエネルギーを輸送しなければならないことにはかわりありません。

 このあたり、一つをたてれば一つが立たない、シナジー効果とスピルオーバーの問題が具現化します。TPP離脱を提唱し、その上で食糧自給率を背景とする第一次産業保護を掲げる政党は、同時にエネルギー自給政策へ再生可能エネルギーが普及を完了する少なくとも今世紀いっぱいまでは原子力政策を進める施策を掲げなければ、政策として矛盾してしまう、こうした視点から、原発論争とTPPにシーレーン防衛を加えた政策論争を、みてゆく必要があるでしょう。原子力政策と食料自給率からのTPP反対は両立しない。これは一例ですが、公約を見たならば、矛盾する政策は無いか。支持政党を選挙において選ぶ際に、一方の政策を強調すれば必然的にもう一方が成り立たなくなる施策を盛り込んでいないのか、見極めなければなりません。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (6)
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