北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

トルコ軍事クーデター未遂事件、その長期化の可能性と我が国安全保障基盤への影響

2016-07-17 22:37:56 | 国際・政治
■地域的均衡破綻の危機
 フランスニースでの無差別テロ事案、そしてトルコ軍事クーデター未遂事件と南スーダン首都騒乱邦人孤立事案、一週間、多くの出来事がありすぎました。

 邦人保護、と共に我が国防衛において最も重要な視点は日本本土の防衛、そして本土全域が戦闘地域と陥らないよう予防外交と外線作戦等周辺事態対処を通じ、日本本土の防衛を達成する必要があります、平和憲法は国家あっての基本法でありこれは国民保護を基盤とし初めて実現できるものです、が、トルコ軍事クーデター未遂事件は、本日、クーデター関与の疑いがある軍部や国家機関等への逮捕請求が6000名を越えたとの報道があり、中東地域の安全保障全般への影響が危惧される状況となっています。

 我が国へ最大の軍事的脅威を及ぼしているのはロシアです、中国の脅威は実行されるリスクが大きいものの軍事力全般ではロシア軍には及びません、そのロシアですが、シリア内戦介入を契機として中東地域への影響度合いを非常に高めており、今回のトルコ軍事クーデター未遂事件に対してロシアは無関係ですが、このトルコ軍事クーデター未遂事件によるトルコ国内での混乱が長期化するならば、例えば反クーデターへの国内統制強化等が人権問題に発展し、EU加盟交渉等により欧州との距離が拡大する場合、ロシアが接近する可能性が否定できないでしょう。

 現実問題として、トルコは欧州とアジア中東地域を結ぶ要衝にあります、そしてトルコの東西南北の国際関係は、北ではロシアがクリミア半島を併合しウクライナへ軍事介入、南はシリア国内でISILが軍事行動と過激派分子の浸透を繰り返すと共に少数民族クルド問題が継続中、西はNATO加盟国であるトルコと同じくNATO加盟国であるギリシャとの間でエーゲ海島嶼部領有権問題が続きます、東にはイランが存在しており近年のイランへのロシアの接近とイランロシアのISIL対処でのシリア支援は度々領空侵犯事案に繋がりトルコとの軍事緊張を生んでいます。

 一方、この地域へロシアが影響力を増大させた場合、中東地域へのロシアの影響度全般が変化し、サウジアラビアやイスラエルとトルコにより不安定ながらも均衡を形成している中東地域において均衡の変化、パワーバランスの転換が生じる可能性が否定できません。トルコはNATO加盟国であり、もちろん、ロシアが軍事侵攻を展開する可能性は低く、勿論即座にはあり得ないとの前提で仮にロシアがトルコへ軍事介入する事が現実となった場合、北大西洋条約五条に基づく集団的自衛権発動によりNATOが全面戦争を前提に介入することとなり、避けなければならない事ではあるのですが、ね。

 クーデターが発生したトルコ、エルドアン大統領はクーデターに参加した関係者及び支援者に対して、極めて厳しい施策を執る事を国民に対し示しています。ただ、今回のクーデター関係者に影響を与えたとするギュレン教団、イスラム主義の政治への反映を期した団体は、ギュレン師が現在アメリカに居住しており、そしてギュレン教団関係者は支持者を含めればトルコ人口の一割に達するものであるとされ、今後の処遇とどの範囲まで粛清の対象とするかにより、どうしても長期化の可能性を払拭する事が出来ません。

 相対的な視点です、欧州とトルコは、アメリカとトルコは、ギュレン師を引き渡すようトルコ政府がアメリカ政府へ意見を表明しているという実情、EU加盟問題に関してエルドアン大統領の強行的姿勢が人権上問題があるとしてEU加盟交渉を難航させているという現状に積み重ねてのクーデター事件を受けての更なる強権化政策の示唆を既にエルドアン大統領が行っている実情、EU加盟交渉は更に長期化するでしょうから、相対的に現状以上にトルコとEU,トルコとアメリカの距離は近くなる可能性は現時点d根ありません、が、ロシアとの関係は、ロシア領空侵犯機撃墜事件が漸く和解へ向かっている現状、相対的に良好化する可能性は、ある。

 この意味するところですが、第一にロシアが我が国石油資源供給の最大地域である中東において影響を及ぼすこと、第二にロシアの対欧米政策がそこ政策を通じ悪化した場合に我が国とロシアが国境を接しているという実情がある、第三にロシアが資源外交を強化する事で国力を増大させ極東地域での影響力増大へ転換する、ということ。第一の問題ですが、ロシアは過去東欧地域に対して天然ガスパイプラインを敷設した上でロシアとの関係悪化の際に即座に天然ガス供給を政治的に停止させる資源外交を実施してきましたので、中東地域での影響力増大はこの資源供給を武器とした対外政策を地球規模で展開する可能性が生じるでしょう。

 国際情勢は一夜にして激変する、これは1979年のアフガニスタン侵攻により学んだはずでしたが2014年のロシア軍クリミア併合はまだまだ認識の甘さを突き付けられましたが第二の視点、極東地域においても2007年にアメリカが東欧地域において実施したミサイル防衛システム配備決定による米ロ関係悪化と準加盟状態にあったロシアとNATOの離反に代表されるような状況が、弾道ミサイル脅威に対し打撃力を選択肢として持たない日本のミサイル防衛に対してむられる可能性がある、ということ。

 そして、ロシアの影響力増大ですが、極東地域での緊張に繋がる、という部分です。これは第二の視点と重なるところですが、中ロ関係というより広い視野を含む必要があります、これは二つの意味があり一つに中国が南シナ海地域か東シナ海地域において軍事行動を行う際にロシアが積極的ではないにしろ牽制の役割を果たす可能性がある、ということ。冷戦時代には中ソ対立という国際政治の趨勢がありましたが、この部分が今日、変化しました。

 若しくはもう一つ、ロシアと中国ですが一旦中国が引いた状態ですが中国は蒙古地域と沿海州地域の歴史的領有権を、歴史的領有権とは中国語であり和訳すれば一度でも自国領となったと解釈する地域や一定以上の友好国領土は自国領域と見做すものですが、この中国とロシアが軍事的衝突の危惧が生じる、ということ、冷戦時代にソ連軍は中ソ国境に45個師団を配置していましたし、中国は1969年にダマンスキー島事件でソ連へ実際に侵攻しています。こうした過去の緊張が中東地域での変化を引き金として再燃する事も、否定できない。

 また、国際情勢は一夜にして激変する、とのリスクです。状況は場合によってはロシアの影響度を高めるものである、そもそも百年前の第一次世界大戦の根底にもトルコとロシアの緊張関係が一部存在するものですので、今後の情勢、トルコの施策が長期的に世界へどのような影響を及ぼすのか、観てゆく必要はあると考えます。そして日本は、ロシアの隣国故に影響を受ける地域ですが短期的には影響はありません、ここでトルコ問題を長期的視野から危機回避の予防外交として関与し、危機の克服に努める視点も、必要なのかもしれませんね。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (10)
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