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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中国に南シナ海管轄権無し、中比南沙諸島紛争へハーグ常設国際仲裁裁判所勧告的意見

2016-07-12 23:08:55 | 国際・政治
■海洋安全保障、画期的判決
 南沙諸島全域において中国の管轄権は認められない、ハーグにある常設国際仲裁裁判所の勧告的意見、判決です。日本のシーレーン安全確保において重要なものとなります。

 今回の判決は2013年にフィリピンが、自国領であるスカラボロー環礁について、中国が不法占拠し、施設建設に対し抗議するために国際司法裁判所において解決を図ったものです、しかし、中国政府が応じなかったため、当事国間の合意を必要とする国際司法裁判所ではなく、より古い長い歴史を持つ常設国際仲裁裁判所へ提訴したものです。常設国際司法裁判所は判事が各国の国際法学者から構成されるもので、事実上、国際法に関する最高度の判断を有する国際機構であり、その勧告的意見は法的拘束力を有するとされます。

 中国の主張、南シナ海のヴェトナム沖からインドネシアとマレーシア沖とフィリピン沖までの航海を自国の管轄権の及ぶ範囲、と主張しています、管轄権が効力を有するのは自国の領海内だけですので、事実上南シナ海全域を自国の領海とした宣言に等しく、これは国連海洋法条約に基づく排他的経済水域や、大陸棚条約に基づく領海の原則からも逸脱するもので、元々、広大な公海を自国の領海と宣言すること自体無理であることは提訴された時点で中国以外すべての国での共通認識でしたが、今回、常設国際仲裁裁判所において確認されたかたち。ただ、常設国際仲裁裁判所勧告的意見は現状を重視する判決も多く、こうした意味から今回の勧告的意見が画期的といえるもの。

 歴史上、リビア政府が同様の発言を行っています、当時のリビア政府独裁者カダフィー大佐は地中海のシドラ湾全域を自国領海と宣言し、死の海域として、そのシドラ湾へ進入した艦艇は無差別に攻撃するとの宣言を行いましたが、当時のアメリカレーガン政権は海洋自由原則として領海外の公海は航行が自由であるとし、空母機動部隊を遊弋、リビア空軍及び海軍が攻撃を掛けましたが、これを全て撃破しました。南シナ海全域が中国の管轄権が及ぶ海域、つまり領海とする主張が国際法上根拠が仮にあったならば、日本のシーレーン防衛にも大きな影響が出た重要な事案でしたので、今回の勧告的意見が持つ意味は大きい。

 南シナ海は歴史的に中国の領域である、という主張が中国政府が繰り返し宣言したものですが、歴史的の定義は自由とはいえ、中国の管轄権が行使されたのは1960年代に入ったものであり、更に1960年代以降、ヴェトナムやフィリピンの領域を武力奪取を含め不法に占有したものです。国際法よりも中国の歴史は長い、との主張ですが、これを始めますと古代文明まで遡り延々と無意味な論争に繋がる為、常設国際仲裁裁判所は、国連海洋法条約に中国が加入している点、中国の不法行為によりフィリピンとヴェトナムから地域を奪取した点、などが今回反映された、ということでしょう。

 中国外務省は今回の判決を無効、と声明を発表しました。対して、フィリピン外相は画期的判断、としています。しかし、中国政府は反発しており、常設国際仲裁裁判所勧告的意見に先んじる9日から、海南島と西沙諸島の海域において海軍演習を実施、制空権確保と対水上戦闘を中心に対潜水艦戦闘までを含めた演習を実施しています、これは国連憲章が示す武力行使に当たるもので、常設国際仲裁裁判所勧告的意見へ軍事力による示威行動を行うという施策に他ならないものでした。今後、中国は国連加盟国であり国連安全保障理事会常任理事国である立場から、国連海洋法条約を逸脱する事は出来ず、無法国家との批判を免れるための施策が必要となる。

 法的拘束力は国際法にあるのか、との視点ですが、幾つかの視点から法的拘束力はあるもの、という学説が現在では主流となっています。元々国際法の根底は1648年のドイツ30年戦争終戦における諸国家間の合意に見出す事が出来ますが、その後の慣習の積層が現代国際法が国際法を形成しました、故にこれまで諸国家間の関係を構成した前例に基づくものであり、此処から逸脱する事は自由ですが、各国との合意、若しくは国家間合意に依拠するものでなければこの合意の慣習という体系化が有する制度から逸脱する事は、一国が自国民向けに宣言する事は出来たとして、多国間での認識の共有に至らしめる事は出来ません。

 国際法の法的拘束力について、もう一つ大きな命題は、諸国家が基本的に自国の不法性を指摘された際に、独自の解釈を積み重ねる過程を経て、国際法上合法である、という主張を行っている事で、これは国家慣行の慣習から外れる行動に対して、その合法性を国際法に求めている事から、判断基準に国際法を置いている事に他ならず、国際法上違法ではない事を強調すること自体が、黙示的に国際法の法的拘束力を認めている、というものです。中国の選択肢には、国連海洋法条約秩序から脱却する事ですが、これは国連からの離脱を意味する事であり、現実的ではなく、今後中国政府は、今回の常設国際仲裁裁判所勧告的意見へ反発する声明と共に、その法的整合性構築へ苦悩することでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (13)
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