北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】IRBリボンブリッジとVBMRグリフォン&EBRCジャガー,ATMOS装輪自走砲とグラアニ装甲車

2023-10-16 20:21:44 | インポート
■防衛フォーラム
 今週も陸軍関連の最新情報をまとめてみました。各国ともに有事の際に確実な調達を想定すると共に外貨温存の視点なども含め装備の国産化を進めている印象ですね。

 オランダ陸軍は改良型IRBリボンブリッジシステムを導入します。オランダ軍はムース川などの重要河川渡河用に伝統的に渡河作戦を重視しており、特に数百m幅の大河への架橋能力を維持しています。今回導入されたのはジェネラツダイナミクスヨーロピアンランドシステムスブリッジシステムズ社製の社名と同じくらい長い架橋装置です。

 現在オランダ軍に装備されている架橋システムは1985年製で老朽化し更新します。改良型IRBリボンブリッジシステムは3セットが取得される計画で、これらをつなぐことにより225mの河川を渡河することが可能となる。改良は既に試作装置での渡河試験が実施中、型IRBリボンブリッジシステムは2025年にも最初の装備が引き渡される。

 改良型IRBリボンブリッジシステムはトラックに搭載した浮橋結節部分複数と、それらを流れのある河川において流失させない動力船部分より構成されていて、改良型はより速い流速に対応し、またこれまで以上に重車両の通行に耐えるとのこと。国土の大半が海抜0m以下のオランダでは万一の際の浸水対策にもこの種の装備は重要のもよう。
■ルーマニア陸軍AAV-7
 黒海での水陸両用作戦を考えているのでしょうか。

 ルーマニア陸軍はAAV-7両用強襲車16両の取得計画についてアメリカ国務省より対外有償供与認可を受けました。16両の取得費用は1億2050万ドルで、この費用には指揮通信車3両と装甲回収車2両及び両用強襲車11両を含み通信装置や砲塔システム、EAAK増加装甲キットや機関銃と照準装置、技術支援費用なども含んでいるとのこと。

 ルーマニア軍の装甲車両体系は主力戦車にT-55改良型のTR-85を運用し、しかしさすがに旧式化が進んでいるとしてM-1A2エイブラムス戦車の導入を検討しています。そして装甲車の主力はMLI-84というソ連製BMP-1のルーマニア軍仕様を運用中で近代化改修によりエリコン25mm機関砲を背負い式に搭載したものを運用しています。

 NATOに加盟したルーマニアはスイス製ピラーニャシリーズを137両導入するなど近代化を進めていますが、純粋な水陸両用車両であるAAV-7はこれまでのルーマニア軍装備体系になかったものであり、黒海沿岸であるとともに国際河川であるドナウ川を国境とする関係上、海軍歩兵部隊である第307海兵大隊へ装備を考えているのでしょう。
■イギリスの次期中型ヘリ
 2020年代には総合入札が用いられるために輸出も技術移転や現地雇用を考えなければ防衛装備品を輸出する事は難しくなっています。

 イギリスの次期中型ヘリコプター選定へシコルスキー社は現地組み立て工場投資を検討中です。これはまだ機種が選定されていない次期中型ヘリコプター選定へ、アメリカのシコルスキー社は現地最終組み立て方式を採用することでイギリス国内への還元を提案しているもので、同社はUH-60ブラックホーク多用途ヘリコプターを提示する見込み。

 次期中型ヘリコプター選定では、最大44機の新型機を10億ポンド、米貨換算では12億8000万ドルという巨費が投じられる計画で、SA-330ピューマ中型ヘリコプター23機とベル412及びベル212などを置き換える構想です。これに対しエアバス社はH-175M多用途ヘリコプター、レオナルド社はAW-149多用途ヘリコプターを提案しています。
■VBMRグリフォン
 揃いましたね高くしないか価格管理を念頭に置いた装備です。

 フランス陸軍はVBMRグリフォン装輪装甲車500号車を受領しました。グリフォンはフランス軍に大量配備されたVAB軽装甲車の後継車両として開発、実に5000両もの多数が製造され、装甲の薄さや路上以外の不整地での踏破能力の限界などが指摘されているもののとにかく多数が配備され歩兵砲兵工兵憲兵を防護したVABを置き換えている。

 VBMRグリフォン装輪装甲車はトラック型の六輪装輪装甲車で、量産開始時に100万ユーロ以内に製造費を抑えることが第一とされた装甲車両、しかし戦闘重量は25tと重く装甲は厚い。トラック型の車両は装甲輸送車から指揮通信車に装甲救急車など多彩な運用が可能で、2018年から量産が開始、早くも500両という纏まった数が揃ったという。
■EBRCジャガー
 価格管理年頭の基本車両を元に価格度外視のハイスペックをおりこむというかなり野心的な設計に見えます。

 フランス陸軍はEBRCジャガー装甲偵察車50号車を受領しました。VBMRグリフォン装輪装甲車500号車を受領した話題とともにこの50号車の話題は発表されています。こういうのも、大口径機関砲とミサイルを備えた砲塔をもつジャガーとグリフォンは外見こそ全く異なるものの、可能な限り社会部分を共通化し製造費用を抑えています。

 EBRCジャガー装甲偵察車はAMX-10RC装甲偵察車とERC-90空挺機動砲の後継車両に位置付けられていて、戦闘重量25tと40mmCTA機関砲及びアケロン対戦車ミサイルを搭載した砲塔を備える六輪式の装輪装甲車で、最高速度は90km/hと航続距離は800kmという。ERC-90よりも遥かに重いですがC-160輸送機ではなくA-400Mに搭載する。

 スコーピオン計画としてフランス軍が装備する多種多様な装輪装甲車を装甲戦闘車であるVBCIと、そしてもう一つの装輪装甲車で統合する計画に基づき開発され、EBRCジャガーの製造費用は量産が進み500万ユーロ、フランス軍は将来的にEBRCジャガー300両とVBMRグリフォンを1872両量産し、旧式化した装甲車を一新する構想です。
■チェコ空軍AH-1Z
 ハインドを手放して必要としている友好国に供給する事で見返りにアメリカから入手したという方式が安価に装備の転換を実現できました。

 チェコ空軍はAH-1Z戦闘ヘリコプターの受領を開始しました。納入されたのは初号機と二号機でアメリカ空軍のC-17輸送機によりチェコのヴィカー空軍基地へ到着、納入式典が行われました。チェコ軍の装備体系はNATO加盟とともに西側装備へ転換を継続していますが多額の費用を要する航空機の切り替えにはようやく着手できたかたち。

 AH-1Zヴァイパー戦闘ヘリコプターとともに整備系統が重なるUH-1Yヴェノム軽輸送ヘリコプターもチェコ空軍に配備されており、9月までにAH-1Zを2機とUH-1Yを2機、更に納入されるとのこと。チェコ空軍は今後2年間にわたりアメリカ海兵隊航空部隊との共同訓練を継続し新しい空中機動装備体系に初度作戦能力を付与させる方針です。
■ATMOS装輪自走榴弾砲
 デンマーク軍は現在砲兵装備が無く、理由は保有していたカエサル自走榴弾砲全てをウクライナへ供給してしまった為で現在砲兵は何を訓練しているのか気になります。

 デンマーク軍は8月4日、イスラエルより最初のATMOS装輪自走榴弾砲を受領しました。デンマーク軍はカエサル装輪自走榴弾砲19門を保有していましたが、これらすべてを2022年のロシアウクライナ戦争開戦後にウクライナへの軍事支援として供与してしまい、陸軍には81mm迫撃砲を除いた砲兵火力、榴弾砲が一門もない状況でした。

 デンマーク軍はこの状況を重く見たものの、欧州の火砲生産状況は飽和状態にあり直ぐ発注した場合でも数年以内に納入される見通しが立たない状況であったため、イスラエルのソルタム社より自走榴弾砲と重迫撃砲や高機動ロケットシステムを調達する方針とし、2023年5月には先ずソルタムK-6重迫撃砲、120mm迫撃砲を受領しています。

 ATMOS装輪自走榴弾砲は19両が導入されることになり、この納入完了によりウクライナへ供与する前の段階の砲兵火力を一応同水準まで戻すこととなります。ATMOS装輪自走榴弾砲は52口径155mm榴弾砲をチェコ製タトラT815VVNトラックへ搭載したもので、全自動化された火器管制システムを備えるとともにC-130輸送機での空輸が可能です。
■リマックスRWS
 グラアニはウニモグ車体を使った事で安易に外国製基幹部品を用いると自由な輸出が政治的制約に阻まれる事を認識させました。

 アルゼンチン陸軍はリマックスRWS遠隔操作銃塔搭載型のグラアニ装甲車を運用開始しました。リマックスはARES社が開発したブラジル陸軍向けのRWS遠隔操作銃塔で12.7mm機銃型と7.62mm機銃型があり、二軸安定化装置による低速行進間射撃能力と見越し線計算能力による移動目標への射撃能力、また夜間戦闘能力などがあります。

 グラアニ装甲車はVBTR-MR装輪装甲車ともいわれ、ブラジル陸軍の要求仕様によりイタリアのイヴェコ社が開発した装輪装甲車、六輪式で全長6.7mと全幅2.7mで戦闘重量16.7tあり2012年より配備が開始されています。アルゼンチンは2022年に156両の導入計画を発表、しかし車体がウニモグ社製であることからドイツ政府が反対を表明していた。

 ウニモグ車体の採用によりドイツ政府が反対した背景には、ブラジル政府がウクライナ政府より450両のグラアニ装甲車売却を求めていたことをブラジルの親ロシア政策で知られるルーラ新大統領が反対していたためであり、これによりアルゼンチンへの輸出は難しくなったと考えられていましたが、今年8月に入り漸く輸出が実現されたかたちです。
■タランチュラ機動装甲車
 これも国産を名乗っていますが基幹部品は輸入であり日本のような防衛産業を持ちたくとも持てない国の事情を垣間見てしまう。

 マレーシア軍はミルデフ社製タランチュラ機動装甲車両178両の導入を決定しました。マレーシア軍は防衛装備品の大半を海外製装備に依存していますが、タランチュラ機動装甲車両はマレーシア国内のミルデフインターナショナルテクノロジーズ社が製造しており、2021年に試作車が完成、評価試験を経て今回正式に量産が決定したかたちという。

 タランチュラ機動装甲車両は四輪駆動式で全長5.6mと全幅2.5m、車体底部は地雷の爆風を逸らすV字型形状を採用し全高は2.5m、キャタピラー社製330hpディーゼルエンジンを備えており、NATO防弾規格STANAG4569換算ではレベル2の防御力を有しています。ただ、エンジンや変速機などは外国製で、装甲車国産化には課題が残りました。
■ブラックウィドウスパイダー
 中国やシンガポールなどの技術を基に独自に組み上げたという力作でやはり現代は国産装備の時代を不安定な国際情勢が醸成してしまった構図だ。

 タイ陸軍はブラックウィドウスパイダー水陸両用装輪装甲車の水上試験を開始したと発表しています。ブラックウィドウスパイダー水陸両用装輪装甲車はDTIタイ国防技術研究所が独自開発した装甲車両です。タイを含めた東南アジア諸国は装備の多くを輸入に依存しており、タイ国防省も2015年にこれを問題視し国産装備開発方針をしめしました。

 ブラックウィドウスパイダー水陸両用装輪装甲車の概要は示されていませんが、水上浮航速度は8km/hであり、八輪式車体を採用、また砲塔部分はシンガポールのSTエンジニアリング社製銃塔が搭載されています。DTIタイ国防技術研究所によれば、この装備は技術実証車であり現段階での部隊配備計画は無いとし、国産技術の養成が目的としています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ情勢-ロシア空軍爆撃機部隊21日間連続航空作戦中止とクピャンスク30回に渡る攻撃

2023-10-16 07:00:49 | 防衛・安全保障
■防衛情報-ウクライナ戦争
 射程の大きな空対空ミサイルが中国とロシアで開発され近年アメリカもその潮流にのりつつある今、防空に関する戦闘機の役割もまた多様化しつつあるもよう。

 ロシア空軍爆撃機部隊は21日間連続で航空作戦を中止している、10月13日付イギリス国防省ウクライナ戦況報告においてその概況を分析しました。過去には今年3月9日から4月28日までの51日間同様の状況がありましたが、イギリス国防省はその背景としてロシア航空宇宙軍が備蓄するAS-23ミサイルを全て射耗したことが背景にあると分析します。

 AS-23ミサイルは爆撃機から投射可能である精度の高いミサイルであり、特にウクライナのインフラ目標などの攻撃に相当数投射しており、順次生産しているとはみられるものの充分備蓄するまでは逐次投入を避けている、このための爆撃機師団の休止状態が設定されているとイギリス国防省は分析しています。そして現在、シャヘド無人機が多用される。
■シャヘド無人機
 ロシア軍がロシア国内生産しているとも伝わる射程の大きな自爆用無人機対策は今後本邦でも対策が必要となる。日本も射程内だ。

 シャヘド無人機、イラン製でロシア国内でも生産される無人機はウクライナのドナウ川沿岸の港湾施設への長距離攻撃に多用されているとのことで、背景にはドナウ川には対岸にルーマニアが位置しており、誤爆を繰り返した場合、NATOに軍事介入の口実を与える事をロシア側が警戒し、比較的に命中精度に優れたシャヘド無人機を用いているもよう。

 精密誘導兵器、というにはシャヘド無人機は信頼性で限界があるとおもれてきましたが、ロシア軍にはシャヘド無人機以上の制度を持つ精密誘導兵器、巡航ミサイル等が枯渇している状況が背景にあると考えられます。シャヘド無人機による攻撃は港湾施設の中でも、穀物貯蔵庫を重点的に叩いており、防空システムの少ない目標を選別しているもよう。
■クピャンスク30回に渡る攻撃
 内線防御の限界というべきでしょうかウクライナ軍陣地が攻撃を受け後退する状況がでてきているもよう。

 ロシア軍はクピャンスクでの30回に渡る攻撃を行っているとのこと、これはISWアメリカ戦争研究所が10月11日に発表したものです。東部戦線北部のこの顕著な変容について。クピャンスクとその近郊のライマンに攻撃を加えており、ロシア軍は大量の人員と装備品をこの方面に集積、シンキフカとイヴァニフへ攻撃の焦点を遷していると考えられる。

 クピャンスクへのロシア軍攻撃は、この攻略によりオスキル川の渡河点を確保できる可能性にロシア軍が着目している事を意味しているという。同時に東部戦線中部ではウクライナ軍がバフムト近郊での一定の前進に成功したという情報がありつつ、逆にロシア軍はアヴディフカとクラスノホリフカにおいて攻勢に転じ、幾つかの陣地占領に成功したという。

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