■自衛隊輸送機空輸支援も続く
8000km先への国際緊急援助隊派遣は平成初期にはなかなか考えられなかった困難さがありましたが、2020年代では充分可能となっています。
1月15日に南太平洋トンガ王国のフンガトンガフアパイ火山にて発生した大規模火山噴火は、火山活動こそ幸いにして持続しませんでしたが、火山性津波と火山灰降灰により甚大な被害が発生し、オーストラリア、ニュージーランドと共に我が国も自衛隊輸送機部隊による国際緊急援助隊を派遣し、災害派遣任務を本格化させていますが、大きな動きが。
トンガ大規模噴火災害国際緊急援助隊の輸送艦おおすみ日本時間2月8日夕刻までに現地へ到着したとのこと。これにより先行し任務を継続しているC-130H輸送機とC-2輸送機部隊と共により大きな輸送力を以て支援を開始する事が可能となります。航空機の運用に影響を及ぼす火山灰ついて、火山灰降灰は既に落ち着いており、飛行には問題ないもよう。
おおすみ艦上では、現在搭載しているCH-47輸送ヘリコプターの防錆梱包を解除している最中といい、間もなく海上部隊の災害派遣が本格化します。おおすみ、時間が掛かりましたが日本から実に8000kmの長距離回航を成功させたこととなり、災害派遣ではタイペックス防護服を着用し現地へCOVID-19感染拡大を招かないよう配慮するといいます。
おおすみ艦上にはCH-47輸送ヘリコプターが搭載されているとともに、LCACエアクッション揚陸艇も搭載、島嶼部国家であるトンガには一カ所に遊弋しつつ航空機と揚陸艇により支援が可能となります。ただ、噴火から三週間以上を経ており、今回搭載している火山灰洗浄用の高圧放水洗浄装置などの需要よりも、復旧から復興にシフトしている状況とも。
防衛省はオーストラリアのキャンベラに設置されたICC国際調整センターへも連絡幹部を派遣しており、また空輸支援部隊として派遣されているC-130輸送機とC-2輸送機もアンバレー空軍基地を拠点に活動を継続していると発表されており、7日には派遣部隊の藤井1佐をオーストラリア空軍のチャペル准将が表敬訪問、日豪両軍の連携を確認しました。
今後の任務として、トンガ政府は最大15mの津波が襲来したものの瓦礫等は少なく犠牲者は3名となっており、それ以上に課題は人口の2.4%にあたる2400名が津波により家屋流失などの被害に見舞われており、寧ろ日本としては仮設住宅等の資材供与が求められるのかもしれません。そして難しいのは、8000kmという距離を隔てての展開能力というもの。
自衛隊の国際緊急援助隊派遣は、トンガ政府の要請を受け準備を本格化させたものの、例えば火山噴火の情報などが充分得られず、例えば航空機の発着は可能な程度の火山灰状況であるのか、実際の死者数やインフラ被害等の全容はつかめず、情報を待てば派遣が遅れ、拙速すぎれば8000kmを航行した先での現地需要との不適合という隔靴掻痒がありました。
しかし、幾つかの自衛隊即応性に関する課題が表面化した事も否めません。例えば、今回はヘリコプター派遣を木更津の第1ヘリコプター団機材を派遣したものの、派遣された輸送艦母港は呉基地、支援車輛の移動などで千葉県と広島県の地理的な距離が派遣を数日単位で遅延させており、ヘリコプターを今後も海外派遣する場合の教訓といえるでしょう。
輸送ヘリコプターを海上自衛隊は独自採用する計画で、UH-60を輸送ヘリコプターに転用する計画です。しかし、吊下げ空輸方式で輸送能力は非常に限られており、例えば呉基地から近傍、山口県は岩国航空基地の海上自衛隊MCH-101掃海輸送ヘリコプターを必要に応じ即座に輸送艦に搭載できる体制などを構築する必要も検討されて然るべきでしょう。
8000km先への派遣というものは自衛隊と日本国憲法に基づく専守防衛の運用からは想定外、こう指摘される方もいるのでしょうが、現実を見れば、アフガニスタン邦人救出や中東で想定されるホルムズ海峡危機、現在進行中のウクライナ危機が拡大した杯の東欧邦人救出など、自衛隊は世界のグローバル化と共に邦人保護の任務にも対応せねばなりません。
輸送機については、C-130H輸送機、次いでC-2輸送機が派遣されています。しかし、長大な航続距離を有するC-2輸送機、飛行隊定数が8機とC-130H飛行隊の半分しかなく、そして全国の基地と補給処を結ぶ業務輸送と兼務している為、8機の内の海外派遣即応機が少なく、例えばC-2輸送機の機数をC-1輸送機並に増やすか、別の選択肢が必要と考えます。
業務輸送を別の航空機に転換させ、C-2輸送機の一定数を海外派遣任務即応に専従させる事が理想なのですが、1970年代から運用し続けているC-1輸送機をこれ以上延命する事は不可能で、例えばオーストラリア空軍は輸送力の大きなC-17輸送機を海外派遣専従とし、国内輸送はC-27輸送機に任せています。もう一機種増やすかC-2を増やすか、選択肢です。
オーストラリア空軍はC-17輸送機、C-130輸送機、C-27輸送機を併用しています。ただ、三機種混成運用は一機種が緊急点検などで飛行出来ない場合に冗長性を残す反面、整備補給体系や教育訓練体系の複雑化により良い事ばかりではありません。C-2を海外派遣用、C-130を業務輸送用に転換する事も考えられますが、そのC-130も老朽化は進んでいます。
C-130については海上自衛隊もC-130Rを運用していますが、YS-11ほど使い勝手は良くない、こういう指摘が
ありました。純然たる戦術輸送機なのですが、やはり米軍用途廃止機を再生するには稼働率の無理なども在ったのでしょうか。こう考えますと、業務輸送については実任務と分け、陸海空の共同運用部隊新設も視野に考えるべきなのかもしれません。
輸送艦について。やはり時間が掛かり過ぎた、という認識か、8000km先まで艦艇による派遣という限界があったのか。ニュージーランド海軍のように要請を待たないプッシュ型支援として、要請が無ければ引き返すという運用を考えられたのかもしれませんが、保護国としての国際関係の歴史がありましたトンガとニュージーランドでは事情が違うのです。
プレゼンスオペレーション。輸送艦に充分な余裕があれば、平時から国際緊急援助隊任務に必要な最小限の車両と様々な物資を洋上の防災倉庫として搭載し、プレゼンス発揮の為に遊弋させておく選択肢はあるのかもしれません。しかし、おおすみ型輸送艦は3隻、一般公開の際に気付かされることですが、艦内容積は通常任務を考えれば余裕はそれ程ではない。
もがみ型護衛艦。ただ上記輸送艦不足については、新型護衛艦もがみ型が解決の糸口となるのかもしれません。FFM多機能護衛艦として設計された護衛艦で、多目的区画に一定程度の物資を搭載可能です。もちろん常時搭載には限界がありますが、例えば追加要員をUS-2飛行艇により洋上の艦上へ増強するかたちで、初動部隊として展開させる事は充分可能だ。
もがみ型の強みは建造計画が22隻あり既に毎年2隻の6隻が建造中という点です。そして所属は輸送艦おおすみ型と同じ掃海隊群が予定されており、海外派遣の初動にも対応できるでしょう。今回のトンガ派遣、8000kmの距離を考えれば成功とはいえるのですが、今後世界において自衛隊に求められる任務を考えれば、考えるべき点も多いのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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8000km先への国際緊急援助隊派遣は平成初期にはなかなか考えられなかった困難さがありましたが、2020年代では充分可能となっています。
1月15日に南太平洋トンガ王国のフンガトンガフアパイ火山にて発生した大規模火山噴火は、火山活動こそ幸いにして持続しませんでしたが、火山性津波と火山灰降灰により甚大な被害が発生し、オーストラリア、ニュージーランドと共に我が国も自衛隊輸送機部隊による国際緊急援助隊を派遣し、災害派遣任務を本格化させていますが、大きな動きが。
トンガ大規模噴火災害国際緊急援助隊の輸送艦おおすみ日本時間2月8日夕刻までに現地へ到着したとのこと。これにより先行し任務を継続しているC-130H輸送機とC-2輸送機部隊と共により大きな輸送力を以て支援を開始する事が可能となります。航空機の運用に影響を及ぼす火山灰ついて、火山灰降灰は既に落ち着いており、飛行には問題ないもよう。
おおすみ艦上では、現在搭載しているCH-47輸送ヘリコプターの防錆梱包を解除している最中といい、間もなく海上部隊の災害派遣が本格化します。おおすみ、時間が掛かりましたが日本から実に8000kmの長距離回航を成功させたこととなり、災害派遣ではタイペックス防護服を着用し現地へCOVID-19感染拡大を招かないよう配慮するといいます。
おおすみ艦上にはCH-47輸送ヘリコプターが搭載されているとともに、LCACエアクッション揚陸艇も搭載、島嶼部国家であるトンガには一カ所に遊弋しつつ航空機と揚陸艇により支援が可能となります。ただ、噴火から三週間以上を経ており、今回搭載している火山灰洗浄用の高圧放水洗浄装置などの需要よりも、復旧から復興にシフトしている状況とも。
防衛省はオーストラリアのキャンベラに設置されたICC国際調整センターへも連絡幹部を派遣しており、また空輸支援部隊として派遣されているC-130輸送機とC-2輸送機もアンバレー空軍基地を拠点に活動を継続していると発表されており、7日には派遣部隊の藤井1佐をオーストラリア空軍のチャペル准将が表敬訪問、日豪両軍の連携を確認しました。
今後の任務として、トンガ政府は最大15mの津波が襲来したものの瓦礫等は少なく犠牲者は3名となっており、それ以上に課題は人口の2.4%にあたる2400名が津波により家屋流失などの被害に見舞われており、寧ろ日本としては仮設住宅等の資材供与が求められるのかもしれません。そして難しいのは、8000kmという距離を隔てての展開能力というもの。
自衛隊の国際緊急援助隊派遣は、トンガ政府の要請を受け準備を本格化させたものの、例えば火山噴火の情報などが充分得られず、例えば航空機の発着は可能な程度の火山灰状況であるのか、実際の死者数やインフラ被害等の全容はつかめず、情報を待てば派遣が遅れ、拙速すぎれば8000kmを航行した先での現地需要との不適合という隔靴掻痒がありました。
しかし、幾つかの自衛隊即応性に関する課題が表面化した事も否めません。例えば、今回はヘリコプター派遣を木更津の第1ヘリコプター団機材を派遣したものの、派遣された輸送艦母港は呉基地、支援車輛の移動などで千葉県と広島県の地理的な距離が派遣を数日単位で遅延させており、ヘリコプターを今後も海外派遣する場合の教訓といえるでしょう。
輸送ヘリコプターを海上自衛隊は独自採用する計画で、UH-60を輸送ヘリコプターに転用する計画です。しかし、吊下げ空輸方式で輸送能力は非常に限られており、例えば呉基地から近傍、山口県は岩国航空基地の海上自衛隊MCH-101掃海輸送ヘリコプターを必要に応じ即座に輸送艦に搭載できる体制などを構築する必要も検討されて然るべきでしょう。
8000km先への派遣というものは自衛隊と日本国憲法に基づく専守防衛の運用からは想定外、こう指摘される方もいるのでしょうが、現実を見れば、アフガニスタン邦人救出や中東で想定されるホルムズ海峡危機、現在進行中のウクライナ危機が拡大した杯の東欧邦人救出など、自衛隊は世界のグローバル化と共に邦人保護の任務にも対応せねばなりません。
輸送機については、C-130H輸送機、次いでC-2輸送機が派遣されています。しかし、長大な航続距離を有するC-2輸送機、飛行隊定数が8機とC-130H飛行隊の半分しかなく、そして全国の基地と補給処を結ぶ業務輸送と兼務している為、8機の内の海外派遣即応機が少なく、例えばC-2輸送機の機数をC-1輸送機並に増やすか、別の選択肢が必要と考えます。
業務輸送を別の航空機に転換させ、C-2輸送機の一定数を海外派遣任務即応に専従させる事が理想なのですが、1970年代から運用し続けているC-1輸送機をこれ以上延命する事は不可能で、例えばオーストラリア空軍は輸送力の大きなC-17輸送機を海外派遣専従とし、国内輸送はC-27輸送機に任せています。もう一機種増やすかC-2を増やすか、選択肢です。
オーストラリア空軍はC-17輸送機、C-130輸送機、C-27輸送機を併用しています。ただ、三機種混成運用は一機種が緊急点検などで飛行出来ない場合に冗長性を残す反面、整備補給体系や教育訓練体系の複雑化により良い事ばかりではありません。C-2を海外派遣用、C-130を業務輸送用に転換する事も考えられますが、そのC-130も老朽化は進んでいます。
C-130については海上自衛隊もC-130Rを運用していますが、YS-11ほど使い勝手は良くない、こういう指摘が
ありました。純然たる戦術輸送機なのですが、やはり米軍用途廃止機を再生するには稼働率の無理なども在ったのでしょうか。こう考えますと、業務輸送については実任務と分け、陸海空の共同運用部隊新設も視野に考えるべきなのかもしれません。
輸送艦について。やはり時間が掛かり過ぎた、という認識か、8000km先まで艦艇による派遣という限界があったのか。ニュージーランド海軍のように要請を待たないプッシュ型支援として、要請が無ければ引き返すという運用を考えられたのかもしれませんが、保護国としての国際関係の歴史がありましたトンガとニュージーランドでは事情が違うのです。
プレゼンスオペレーション。輸送艦に充分な余裕があれば、平時から国際緊急援助隊任務に必要な最小限の車両と様々な物資を洋上の防災倉庫として搭載し、プレゼンス発揮の為に遊弋させておく選択肢はあるのかもしれません。しかし、おおすみ型輸送艦は3隻、一般公開の際に気付かされることですが、艦内容積は通常任務を考えれば余裕はそれ程ではない。
もがみ型護衛艦。ただ上記輸送艦不足については、新型護衛艦もがみ型が解決の糸口となるのかもしれません。FFM多機能護衛艦として設計された護衛艦で、多目的区画に一定程度の物資を搭載可能です。もちろん常時搭載には限界がありますが、例えば追加要員をUS-2飛行艇により洋上の艦上へ増強するかたちで、初動部隊として展開させる事は充分可能だ。
もがみ型の強みは建造計画が22隻あり既に毎年2隻の6隻が建造中という点です。そして所属は輸送艦おおすみ型と同じ掃海隊群が予定されており、海外派遣の初動にも対応できるでしょう。今回のトンガ派遣、8000kmの距離を考えれば成功とはいえるのですが、今後世界において自衛隊に求められる任務を考えれば、考えるべき点も多いのかもしれません。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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また、今回の派遣で輸送艦のヘリ格納庫の必要性が再認識されました。後継艦 にはぜひ装備して欲しいですね。
もがみ型や次期哨戒艦は物質の輸送もできる汎用性や数が即時性(多いため)がありそうで、使いやすい艦艇になって欲しいと期待しています。