北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

偵察戦闘連隊を創設せよ!現在の偵察戦闘大隊では威力偵察不可能,前衛突破可能な連隊が必要

2021-11-25 20:14:36 | 防衛・安全保障
■大隊は偵察中隊と戦闘中隊
 偵察隊といいますと師団祭などの訓練展示模擬戦では初動として87式偵察警戒車とともに展開し空包の迫力を響かせます。

 偵察戦闘大隊、現在全国の師団や旅団で戦車大隊を置き換えるべく編成が進められています。16式機動戦闘車の戦闘中隊と偵察隊を改編した偵察中隊を大隊隷下におく、16式機動戦闘車の火力により威力偵察を行うという構想です。しかし、これで敵の前衛を突破できるのでしょうか、また師団の虎の子である戦闘中隊が偵察だけに専念できるのでしょうか。

 偵察戦闘連隊、必要な任務を完遂するには2個中隊基幹の大隊を大隊長とともに置くのではなく、もう少し大きな部隊規模が必要だと考えるのです、なぜならば昔のように偵察隊が接触した敵に対抗する"重厚な"連隊戦闘団というものは、もはや存在しないのですからね。すると、16式機動戦闘車を保有の偵察部隊に掛かる任務というものは必然、重くなります。

 16式機動戦闘車。戦車が平成初期の1000両体制から300両にまで削減されるとともに、当初は偵察警戒車の用途として考えられていました装輪式の機動砲が、戦車も火砲も引き抜かれた師団や旅団ではわずか一個中隊ではあるものの、対戦車戦闘の中枢となります。対戦車ミサイルもありますが、この削減といいますか新旧置換えの無い、自然減も進む。

 87式偵察警戒車5両を主力とする偵察隊と比較するならば、偵察戦闘大隊は強化こそされているのでしょうが、従来の偵察隊は敵との接触が任務であり、前衛を突破し敵主陣地の状況を解明する任務は重視されていません、87式偵察警戒車では、想定脅威は30年前、敵前衛に戦車が配備されているならば、突破ではなく退避しなければ生存さえ難しいのです。

 10式戦車、もともと10式戦車が開発された当時は戦車600両体制であり、師団戦車大隊は縮小されるもの維持される方針でした。2個中隊30両を定数として、1個中隊をかつての対戦車隊のように師団長直轄の予備として残し、1個中隊を小隊ごとに連隊戦闘団へ配備するという、アメリカ海兵隊のMEU海兵遠征群の戦車小隊と同じ考えであったのですね。

 連隊戦闘団、従来の編成では偵察隊の装備は軽くとも、普通科連隊を基幹として編成される連隊戦闘団が強力でした、普通科連隊に戦車中隊の戦車14両、特科大隊の火砲10門、火力に普通科連隊が重迫撃砲中隊の重迫撃砲12門が加わり、そこに施設小隊と連隊の施設作業小隊、高射特科大隊から高射小隊も加わり、今日的に見れば、なかなかに強力でした。

 現在の師団は、特科部隊が削減の上で方面特科連隊に統合、師団に一個大隊が担当大隊として配置されるのでしょうか、これでは全般支援火力にしかならず、普通科連隊に戦砲隊で2門づつ、という支援は考えられません、戦車は北部方面隊に集中、西部方面隊だけは方面戦車隊が在りますが、ほかの方面隊は資料館前に置かれるのみに改編、戦車は珍しくなる。

 偵察戦闘大隊の負担というのは、いままで存在しました"後に続く連隊戦闘団への先鋒として偵察を担う"のではなく、文字通り本来の偵察部隊の任務、16式機動戦闘車を先頭に"敵の前衛を突破し主陣地の陣容を解明する"ことで、徒歩部隊主体の普通科部隊による、あらゆる地形と天候を克服し近接戦闘を担う、ことでの攻撃に役立てる必要があるのですね。

 普通科連隊の現状は厳しい、結果的に普通科連隊が戦闘団を組むにも師団から得られる戦力がありませんし、同じく削減が進んだ欧州では装甲戦闘車が広く配備され打撃力の骨幹を担っていますが、自衛隊の普通科連隊は北部方面隊を含め、即応機動連隊に装甲車を抽出されたことで、実質欧州の空挺部隊なみの機械化に留まるのみ、戦術選択肢が限られる。

 偵察戦闘連隊。現状、陸上自衛隊の人員は限られています、限られているのは人員をそのままに水陸機動団や即応機動連隊と新部隊を編成するためにしわ寄せが危機的な状況になっていることにほかなら無いのですが、これを補う装備の増強もなく、これは妙な喩えですが、日本側中小企業経営失敗の縮図、これが露呈している構図といわざるを得ません。

 しかし、普通科連隊には一個中隊、軽装甲機動車中隊が置かれています。この装備を抽出し、勿論それは普通科連隊の装備をさらに削ることとなるが、3個の軽装甲機動車中隊をかき集め、偵察隊と統合することで、規模としては旅団普通科連隊並の人員と、70両ほどの軽装甲車が揃うこととなります、この規模ならば偵察任務を行える、突破か迂回か可能だ。

 軽装甲機動車。この集中を考える背景には、現在、普通科連隊において軽装甲機動車の運用が当初考えられた乗車戦闘とはかけはなれた運用が為されている点があるのです。もともと軽装甲機動車は部隊の集合と分散を迅速化するために一個小銃班を複数の車両に乗せたものでして、下車戦闘は想定されていない筈ですが、実運用は異なるものになりました。

 近接戦闘を担う普通科部隊では、しかし、軽装甲機動車は下車戦闘の小型すぎる装甲輸送車両として用いられていまして、なにしろ一個小銃班に操縦手2名と車長2名が必要なのですから、下車戦闘は操縦手と車長を加えなければ成り立ちません、つまり敵と接触した軽装甲機動車は車両を放棄して下車戦闘に移行する運用が現在の基本的な運用なのです。

 歩兵戦闘としては正しい。車上荒らしに備えて軽装甲機動車は施錠し放置する、敵と接触した下車部隊は接触を絶っては意味がありませんので、徒歩部隊として軽装甲機動車からどんどん離れてゆき、後日回収するという。だから軽装甲機動車の機銃は取り外し専用であり、M-2重機関銃のような車載武器さえも搭載しない、変則的な運用がとられるという。

 乗車戦闘用の装備、しかし普通科部隊の任務は近接戦闘ですので乗車戦闘には限界がある、このために変な運用が為されている訳です。それならば、普通科部隊は高機動車主体に切り替え、軽装甲機動車は偵察部隊に統合してしまってもよいのではないか、偵察部隊ならば乗車戦闘を基本とし、安くはない装甲車を放置せず済み、車上狙いにも荒らされません。

 偵察戦闘連隊、ただでさえ減っている普通科から装甲車まで取り上げるのか、元々少ない人員の師団にもう一人連隊長を置くとは何事かと反論もあるでしょう。しかし、軽装甲機動車の現在の運用が正しいとは考えられないのですよね、また蛇足ですが、連隊編成ならば機動戦闘車小隊を含む臨時偵察中隊を複数編成し、普通科連隊戦闘団に配属可能です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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7 コメント

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面白い案ですね (ドナルド)
2021-11-27 21:44:06
偵察戦闘連隊(実質大隊)の編成は面白いアイディアだと思います。ただ個人的には、普通科連隊(実質大隊)の軽装甲車中隊は12.7mm機銃や7.62mmガトリングなど搭載のRWSで火力を強化して軽装甲戦闘中隊に再編し、連隊の機動火力部隊として残し、高機動車主体の1個普通科中隊を廃止するのが良いと思います。

西部方面隊であれば、諸島の警備隊と両用団を除き、第4師団(3x普連+偵中=13x歩/偵中隊+1x機戦中隊)、第8師団(1x即連+2x普連+偵中=12x歩/偵中隊+2x機戦中隊)、第15旅団(1x普連+偵中=4x中隊)基幹で、29x歩兵/偵察中隊+3x機戦中隊基幹です。これは全部合わせて、ちょうど「普通の1個師団」相当です。そこで、これを「3x普通科大隊(9個中隊)+1個偵察中隊」=10個中隊基幹の旅団2個に再編し、第15旅団(4x歩/偵中隊)を現状維持すれば、24個歩/偵中隊。充足率の向上のため4個中隊を廃止し、残る1個歩兵中隊を機械化して、3個の機動戦闘車中隊あわせて1個偵察戦闘大隊を編成するのでどうでしょう?

3個機動戦闘車中隊と1個機械化歩兵中隊を基幹とすれば、きちんと威力偵察のできる部隊になるかと。

その上で、西部方面隊隷下に、作戦指揮部隊として「第4師団司令部」を新たに発足させればよいかと。
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遠征機動連隊 (はるな)
2021-12-04 10:21:43
ドナルド さま こんにちは

軽装甲機動車、普通科の運用と合致していないのが、この論点の骨子でして、例えば車体を90センチ延長して後部に更に三名乗車できる軽装甲輸送車か高機動装甲車、というような車両があれば普通科には適合するのかな、と

師団のデザインですが、これは段階を踏み改編するべき、と考えます。ただ、最終的には陸自全体を四個師団程度に再編し、その隷下に11個旅団と水陸機動団を置く。一方で地域司令部として方面隊を維持する、こうした選択肢が必要だと、考えています
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おっしゃる通りです (ドナルド)
2021-12-04 18:45:21
はるなさま

「軽装甲機動車、普通科の運用と合致していない」のはおっしゃる通りで、故にウエポンキャリア、火力中隊として再編することを提案したものです。近年まで、米陸軍の歩兵大隊は、2個ライフル中隊と1個火力中隊でしたので、そのマネです。

「軽装甲機動車の中隊を、軽装甲歩兵として使う」ことには、私も反対です(反対というか、そもそも現時点で歩兵として成立していないと思います)。むしろ、87式偵察警戒車を真似して、2名の乗車戦闘(操縦手と車長兼射手)と2名の下車偵察隊で1両を運用してはどうでしょう?2-3両で分隊を編成し、3個分隊で中隊にする運用法が良いかと。。。

#個人的には、対ドローン戦術が全く空っぽであり、数年以内には超小型のフェーズドアレイレーダーや多点音響センサでドローンを検知し、対ドローン火器としての20-30mmの空中炸裂弾を搭載する車両を、全ての部隊が多数必要とするのではないかと考えており、軽装甲機動車がこれを担うのではないかと。。。
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陸自の改編について (ドナルド)
2021-12-05 10:58:42
おっしゃるような旅団中心で師団司令部を置くような改編は必要と思います。というか急ぐ必要があると思います。

中国と戦争をするつもりは全然ないですが(したくない)、戦力バランスを欠けば平和が損なわれるというのは歴史が証明していることです(ウクライナ、南沙諸島、第1次湾岸戦争時のクエートなど)。「お互い戦争しないほうが得だよね」と思わせることが平和維持の根本だと思います。

日本は中国に対して軍事的に明確に劣勢ですので、A2ADの視点にたった戦力構成が必須です。サイバーやドローンと言った今そこにある戦術の変革に対応する必要があります。戦車の時代に要塞線を作ったり、空母の時代に戦艦を作ったりしていてはダメなわけです。

SSM部隊、サイバー部隊、長距離SAM部隊、そしてその警備部隊が必要です。また全部隊にドローンの大量配備と対ドローン戦術の確立が必要です。陸自では陸士の欠員がひどくその充足率は6割程度と聞いていますが、こうした新時代の部隊は陸士ではなく、曹や幹部を大量に必要とします。別に前線部隊を廃止するわけではありません。陸自の前線部隊は2/3程度に削減し(陸士が〜90%充足になり、創設以来初めてまともな陸自になる)、こうした新時代の部隊に人員・予算を割り振るべきです。

防衛費の増額は重要ですが、今でも他の予算と比べて格段の増額です(教育研究予算のほぼゼロの伸びを見ると数十年後に国が衰退しても良い=教育研究を廃れさせても良いとでも思っているのでしょうかね。。。)。そして人員の増強はもっと無理です。若年人口は自衛隊の定員よりも遥かに急速に減っています。防衛費増や人員増をまつことなく、現在の部隊を改編して現代戦に対応すべきです。
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Unknown (774)
2021-12-10 09:08:52
>ドナルドさん

私も教育にリソースを投入すること自体は賛成ですが
日本のリベラルは税金でFランク大学を太らせそうで怖い
(そんな事をするぐらいだったら
税金で優秀な若者を海外の大学に留学させたほうがマシです)
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> Unknown (774)さん (ドナルド)
2021-12-13 21:56:27
おっしゃるとおり、平等に傾斜しすぎる勢力もいるでしょうね。(まあ、彼らを「リベラル」というと、「本流の中道リベラル」が困るでしょうけど。。。右翼と保守を混同するようなものですからね。。。)

個人的には、最も大切なことは、「(親の)お金がないから学べないけど、実は優秀な若者」をきちんと育て上げることと、きちんと基礎研究をサポートすることと、そしていろいろな技術開発にしっかりと投資し、かつ、失敗しても笑って済ませるすることでしょう。

ちなみに、防衛費の盛大な無駄遣いは、とても教育費を文句言えないレベルだと思います。「自衛隊は戦わないから救急セットは適当で良い、医官も少なくて良い」とか「幹部を育てないといけないから、5000人規模の大型旅団(本来は司令は准将)に過ぎない部隊を、「軍団」を指揮すべき中将が指揮する非効率極まりない編成でも良いのだ」とか、「ほとんど近代化もせずに74式戦車をまだ使っている」とか、つい最近まで陸自で「戦車のほうがAPCよりも数が多いと言う信じがたい編成がまかり通っていたこと」とか、いっぱいいっぱいあると思います。(笑)

しっかりしていただかなくては、そして我々国民一人一人もきちんと高いリテラシーを持って、健全な批判と建設的な提案をしなくては!!
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Unknown (774)
2021-12-15 09:07:12
>ドナルドさん

日本、海外問わず
中道リベラルが本流と言えるのでしょうか?
ザ・レフトの大きな声ばかりが目立っています
(海外だとアレクサンドリア・オカシオ=コルテス
日本だと山本太郎、福島瑞穂)
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