■足摺岬沖潜水艦衝突事故
そうりゅう衝突事故の昨日夕刻に入っての一報には驚かされましたが、事故発生から潜水艦隊への報告遅れが通信機能全損の為との状況に更に驚かされました。
衝突事故を起こした潜水艦そうりゅう、昨夜2300時頃に高知港外に緊急錨泊しました。入港しなかったのは、潜水艦を入港させるには専用の曳船が必要であり、基本的に基地施設以外では潜水艦は港外に錨泊し補給などは伝馬船や交通船などを用いる為です。しかし、海上保安庁が昨日撮影し公開した事故後の潜水艦空撮画像は、被害の大きさが目立つ。
そうりゅう。セイル部分には大きな損傷が見られ、潜舵が大きく破損し変形していました。事故発生から報告まで三時間を要した、とされていますが、原因は衝突により通信手段を喪失したためで、携帯電話は使用可能ですが事故海域の足摺岬南方40kmは携帯電話圏外、そのために航行は可能であったため、先ず沿岸に近い通話圏内まで自力航行した、という。
タレスCMO10非貫通型デジタル潜望鏡やZPF-6レーダー及び電子戦装置、事故の報道で画像が公開される前には、艦橋のアンテナが破損し通信不能、となったため、これらの装置がもぎ取られた構図かと考えていましたが、海上保安庁発表画像では潜望鏡などは無事、勿論衝撃で破損の懸念はありますが脱落するような損傷は確認できませんでした。しかし。
潜舵が大きく破損していた。修理は充分可能でしょう、潜水艦同士の事故で一番印象的な事故に1992年2月11日にバレンツ海で発生した米ロ潜水艦衝突事故がありました、ロサンゼルス級原潜バトンルージュとシエラⅠ型潜水艦B-276/クラーブが衝突した事故で、クラーブは艦橋圧壊という大破でしたが、艦橋部分に限られたため修理され現役復帰します。
そうりゅう衝突事故、実のところ人的被害が生じる事なく潜水艦の破損に留まりましたので、僥倖といえば僥倖なのですが、一概に単なる潜水艦衝突事故や訓練不十分というだけに留まらない実状があるようです。なかでも、マストが欠損したことにより潜水艦は全ての通信能力を喪失した、という点でしょうか。潜水艦通信系統に予備がなかったのですね。
通信不能。これは重大な問題です、軍事機構とは指揮系統により成り立ちまして、潜水艦はVLF超長波通信アンテナブイを装備しています。これは水中の潜水艦から通信ケーブルに繋がれたブイを発進させブイを水中50mくらいまで浮上させますと、VLF周波数の通信を、潜水艦は水深数百m潜航を維持したまま通信可能です、しかし、受信しかできない。
潜水艦にしかし、予備の通信手段が無く、四国沿岸部まで航行して携帯電話で通信することしかできなかった、というのは衝撃的でした。こういいますのも、陸上自衛隊の装備に携帯可能な衛星通信装置がかなり広く配備されていまして、防衛出動ではないですが東日本大震災でも災害派遣部隊が民間通信回線輻輳下において通信を維持していたのですね。
VLF超長波通信の送信には波長に応じて長いアンテナが必要となり、もともと潜水艦には受信アンテナしか搭載していません。潜水艦が送信するには浮上しての通信となります。そのアンテナは浮上した際に潜水艦が船体全部を曝さず送信できるように、潜望鏡付近に配置されていまして、これが今回この部分をピンポイントで破壊された、ということ。
水中電話という選択肢も潜水艦側にはありました、これは一種のアクティヴソナーを用いた音声伝達手段で8kHzの国際音響帯域が水中電話用に確保されています。ただ当たり前ですが水中で大声を出すようなものですので、四国南方から呉基地へは報告できません、近傍に潜水艦や護衛艦が遊弋している場合にのみ有効、そうりゅう、今回訓練は単独でした。
JPRC-C1衛星単一通信携帯局装置。実は陸上自衛隊は通信網が破壊された場合に予備の通信装置を有しています、それがJPRC-C1,普通のアタッシュケース程度の大きさですが、アタッシュケースのように開くと上半分が大きく広がり衛星通信できるアンテナに、そして下半分には電源とともに受話器がおかれていまして、世界中と音声とデータ通信が出来る。
タスコムXという高機動車に搭載されたかなり大型の衛星通信装置、正式にはJMRC-C4衛星単一通信可搬局装置という装備が師団や旅団単位で装備されているのですが、これに万一があった際の予備がJPRC-C1です。そしてこれら衛星通信装置も、実は防衛マイクロ回線通信の予備、陸上自衛隊は衛星以外にも他に野外通信システムを装備しています。
潜水艦は一段潜航しますと通信は受信のみとなり、潜水艦艦長は一人で潜水艦の指揮官であると共に戦域作戦での指揮官でもある、とはよく潜水艦の特性説明に際して用いられる表現です。しかし、今回は自力航行できましたが、通信系統はこのままで良いのでしょうか。勿論浮上しなければ衛星通信装置も使えず、潜水艦事故は浮上出来ないこともあるが。
予算に限りがある事は理解しているのですが、22隻の潜水艦は日本の重要な装備です。JPRC-C1衛星単一通信携帯局装置くらいは搭載できないものでしょうか。潜水艦の容積は限られますがそれほど大きなものではありません、艦艇建造費は備品一つ一つ予算を削り積み上げて数億円単位の予算縮小を行っているのは理解していますが、必要な装備です。
そうりゅう。報道写真が出始めますと船体右舷側に擦過痕が広範囲に見えまして、音響タイル擦過に留まらない懸念もあります。また、過去に記載しましたように、そうりゅう、幾つか看過できない出来事があり、こうした艦は、艦に限りませんが傾向として再発防止が徹底されすぎますと、艦内の自由闊達な発想が委縮、意志疎通の齟齬が生じやすくなる。
事故は一歩間違えれば潜水艦救難艦出動となるところでしたが、しかし幸い今回は人的損耗が生じる様な事故ではありませんでした。修理には時間を要するとは思いますが、この種の装備体系を整備する以上、どうしても発生し得るものは各国海軍の事例をみるとおりでして、乗員と部隊が、過度に委縮せず元気に服務できる環境こそが、再発防止の要諦でしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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そうりゅう衝突事故の昨日夕刻に入っての一報には驚かされましたが、事故発生から潜水艦隊への報告遅れが通信機能全損の為との状況に更に驚かされました。
衝突事故を起こした潜水艦そうりゅう、昨夜2300時頃に高知港外に緊急錨泊しました。入港しなかったのは、潜水艦を入港させるには専用の曳船が必要であり、基本的に基地施設以外では潜水艦は港外に錨泊し補給などは伝馬船や交通船などを用いる為です。しかし、海上保安庁が昨日撮影し公開した事故後の潜水艦空撮画像は、被害の大きさが目立つ。
そうりゅう。セイル部分には大きな損傷が見られ、潜舵が大きく破損し変形していました。事故発生から報告まで三時間を要した、とされていますが、原因は衝突により通信手段を喪失したためで、携帯電話は使用可能ですが事故海域の足摺岬南方40kmは携帯電話圏外、そのために航行は可能であったため、先ず沿岸に近い通話圏内まで自力航行した、という。
タレスCMO10非貫通型デジタル潜望鏡やZPF-6レーダー及び電子戦装置、事故の報道で画像が公開される前には、艦橋のアンテナが破損し通信不能、となったため、これらの装置がもぎ取られた構図かと考えていましたが、海上保安庁発表画像では潜望鏡などは無事、勿論衝撃で破損の懸念はありますが脱落するような損傷は確認できませんでした。しかし。
潜舵が大きく破損していた。修理は充分可能でしょう、潜水艦同士の事故で一番印象的な事故に1992年2月11日にバレンツ海で発生した米ロ潜水艦衝突事故がありました、ロサンゼルス級原潜バトンルージュとシエラⅠ型潜水艦B-276/クラーブが衝突した事故で、クラーブは艦橋圧壊という大破でしたが、艦橋部分に限られたため修理され現役復帰します。
そうりゅう衝突事故、実のところ人的被害が生じる事なく潜水艦の破損に留まりましたので、僥倖といえば僥倖なのですが、一概に単なる潜水艦衝突事故や訓練不十分というだけに留まらない実状があるようです。なかでも、マストが欠損したことにより潜水艦は全ての通信能力を喪失した、という点でしょうか。潜水艦通信系統に予備がなかったのですね。
通信不能。これは重大な問題です、軍事機構とは指揮系統により成り立ちまして、潜水艦はVLF超長波通信アンテナブイを装備しています。これは水中の潜水艦から通信ケーブルに繋がれたブイを発進させブイを水中50mくらいまで浮上させますと、VLF周波数の通信を、潜水艦は水深数百m潜航を維持したまま通信可能です、しかし、受信しかできない。
潜水艦にしかし、予備の通信手段が無く、四国沿岸部まで航行して携帯電話で通信することしかできなかった、というのは衝撃的でした。こういいますのも、陸上自衛隊の装備に携帯可能な衛星通信装置がかなり広く配備されていまして、防衛出動ではないですが東日本大震災でも災害派遣部隊が民間通信回線輻輳下において通信を維持していたのですね。
VLF超長波通信の送信には波長に応じて長いアンテナが必要となり、もともと潜水艦には受信アンテナしか搭載していません。潜水艦が送信するには浮上しての通信となります。そのアンテナは浮上した際に潜水艦が船体全部を曝さず送信できるように、潜望鏡付近に配置されていまして、これが今回この部分をピンポイントで破壊された、ということ。
水中電話という選択肢も潜水艦側にはありました、これは一種のアクティヴソナーを用いた音声伝達手段で8kHzの国際音響帯域が水中電話用に確保されています。ただ当たり前ですが水中で大声を出すようなものですので、四国南方から呉基地へは報告できません、近傍に潜水艦や護衛艦が遊弋している場合にのみ有効、そうりゅう、今回訓練は単独でした。
JPRC-C1衛星単一通信携帯局装置。実は陸上自衛隊は通信網が破壊された場合に予備の通信装置を有しています、それがJPRC-C1,普通のアタッシュケース程度の大きさですが、アタッシュケースのように開くと上半分が大きく広がり衛星通信できるアンテナに、そして下半分には電源とともに受話器がおかれていまして、世界中と音声とデータ通信が出来る。
タスコムXという高機動車に搭載されたかなり大型の衛星通信装置、正式にはJMRC-C4衛星単一通信可搬局装置という装備が師団や旅団単位で装備されているのですが、これに万一があった際の予備がJPRC-C1です。そしてこれら衛星通信装置も、実は防衛マイクロ回線通信の予備、陸上自衛隊は衛星以外にも他に野外通信システムを装備しています。
潜水艦は一段潜航しますと通信は受信のみとなり、潜水艦艦長は一人で潜水艦の指揮官であると共に戦域作戦での指揮官でもある、とはよく潜水艦の特性説明に際して用いられる表現です。しかし、今回は自力航行できましたが、通信系統はこのままで良いのでしょうか。勿論浮上しなければ衛星通信装置も使えず、潜水艦事故は浮上出来ないこともあるが。
予算に限りがある事は理解しているのですが、22隻の潜水艦は日本の重要な装備です。JPRC-C1衛星単一通信携帯局装置くらいは搭載できないものでしょうか。潜水艦の容積は限られますがそれほど大きなものではありません、艦艇建造費は備品一つ一つ予算を削り積み上げて数億円単位の予算縮小を行っているのは理解していますが、必要な装備です。
そうりゅう。報道写真が出始めますと船体右舷側に擦過痕が広範囲に見えまして、音響タイル擦過に留まらない懸念もあります。また、過去に記載しましたように、そうりゅう、幾つか看過できない出来事があり、こうした艦は、艦に限りませんが傾向として再発防止が徹底されすぎますと、艦内の自由闊達な発想が委縮、意志疎通の齟齬が生じやすくなる。
事故は一歩間違えれば潜水艦救難艦出動となるところでしたが、しかし幸い今回は人的損耗が生じる様な事故ではありませんでした。修理には時間を要するとは思いますが、この種の装備体系を整備する以上、どうしても発生し得るものは各国海軍の事例をみるとおりでして、乗員と部隊が、過度に委縮せず元気に服務できる環境こそが、再発防止の要諦でしょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
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海上事故の割合として、軍艦関係は多いのでしょうか?
ご存知の方教えてください。