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小松-装輪装甲車(改)の再評価【4】二種類の装輪装甲車を配備してはどうかという視点

2022-10-06 20:09:47 | 先端軍事テクノロジー
■小松-装輪装甲車(改)の再評価
 NBC偵察車を見上げてみますとそのままでも充分多用途に用いる事が可能とも思うのです。

 小松-装輪装甲車(改)、この不採用となった車体についてはかなり無理を強いている印象は否めないのですが、原型となったNBC偵察車については、車体が大きい点を除けばそれ程運用している方から厳しい声は聞こえてこないのですよね。もちろん、運用特性上、16式機動戦闘車と共に攻撃の第一線を担う車輛でない故の評価ではあるのかもしれませんが。

 二種類の装輪装甲車を配備してはどうか、という提案です。もちろん、三菱の機動装甲車パトリアAMV,ピラーニャLAVは優れた装甲車です。しかし、これを全ての師団や旅団に配備できる予算が捻出できると考えるほど楽観的にはなれません、総合近代化師団や旅団、7個編成される即応機動連隊所要を満たせるかも、相当な予算面での覚悟が必要です。

 小松-装輪装甲車(改)の再評価。実際にはNBC偵察車の派生型装甲車という視点ですが、考えてみると10式戦車や16式機動戦闘車と共に突撃するには89式装甲車に伍する防御力が必要となりますので、三菱の機動装甲車や検討車輛とされるパトリアAMV,ピラーニャLAVのような防御力が必要となります。しかし、その他に手頃な硬い車両はあっていいと思う。

 二種類の装甲車に分けるのではなく、ファミリー体系を構築してできるだけ統合化するべきではないか、という反論はあるかもしれません。しかし基本となる車体を安価にまとめますと重装甲や砲塔搭載に問題が、基本だけでも頑丈なものとした場合には車体だけでも取得費用が高騰してしまい、自衛隊の現状、限られた予算では数を充分に揃えられません。

 VBCI装輪装甲戦闘車、フランス陸軍は強力な25mm機関砲塔と八輪駆動による強力な不整地突破能力を有する車輛を機甲旅団に配備していますが、この他にVBMR装輪装甲車とPVP装輪装甲車を汎用装甲車として配備しています。VBMRはジャガー偵察警戒車の車体部分を応用した耐爆装甲車型の装輪装甲車でVAB軽装甲車の後継に配備が進む新装備です。

 フランス陸軍では冷戦時代にも装軌式のAMX-10P装甲戦闘車を補完するVAB軽装甲車とVBL軽装甲車を運用していましたが、VABをVBMR,そしてVBLをPVPが置換えている構図で、全て最高の性能を付与せずとも用途によって装甲防御力や車高等の要求は異なる点に柔軟に合わせ装備体系を構築しています。車種は増えても経済的ではないでしょうか。

 VBMRなどは、特に製造上絶対の条件とされたのが“100万ユーロを超過しないこと”という単価の抑制で、要するに高性能な装甲車を開発して結局数が揃わない状況よりは、100万ユーロの枠内に抑えれば充分な数が揃えられるとした上で、その上で得られる性能の上限を求める、これがVBMRの特性でした。揃う、これは非常に重要な視点に他なりません。

 パンドゥールEVO装輪装甲車。オーストリア軍の最新装輪装甲車です。上記のフランス軍の事例を示しますと、欧州最強の陸軍に在る事例を海洋国家日本に引き合いに出されても、と反論があるかもしれませんが、永世中立国オーストリアも似た施策を執っています。パンドゥールEVO装輪装甲車は機関砲を搭載するパンドゥール2装輪装甲車の廉価版です。

 オーストリア陸軍では装甲旅団の装甲擲弾兵にASCOD/ウラン装甲戦闘車を配備し、支援用に30mm機関砲塔を搭載した八輪式のパンドゥール2装輪装甲車を装備しています。しかし支援用としては余りに高価で、六輪式で砲塔搭載能力を省いたパンドゥールEVO装輪装甲車を開発し、1979年に完成したパンドゥール1装輪装甲車の後継へ充てられました。

 82式指揮通信車、232両が生産されました。この後継車両は現段階でどうするのか、車幅の大きな16式機動戦闘車派生型やパトリアAMV、ピラーニャLAVの派生型では平時の訓練移動に支障をきたしますし、元々特科部隊の指揮通信車として開発されましたが、特科火砲は縮小されたものの、ミサイル部隊は増強の一途をたどり多数の後継車両が必要です。

 総合近代化師団総合近代化旅団の普通科連隊所要装甲車、強力な装甲防御力を備えた総合近代化部隊は全ての普通科連隊の一部中隊を装甲化していましたが、この一段下の即応部隊に位置付けられた即応機動連隊新編に併せて、装輪装甲車を抽出され続け、地域配備師団の普通科連隊並に弱体化しました、こちらも200両程度は配備されなければなりません。

 装甲救急車、指揮通信車、自走ミサイル発射装置、既存の車両でも装甲化されていなければ、実際のところ有事の際に貴重な人命を危険にさらす装備品は数多くあります、旧帝国陸軍ではないのですから人命は大事にせねばなりません。これらを踏まえた上で、改めて、“小松-装輪装甲車(改)の再評価”という命題に臨むべきではないか、こう考えるのですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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2 コメント

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なればこそ (ドナルド)
2022-10-06 23:25:34
ありがとうございます。

安価が重要なればこそ、8WDなどという整備負担の大きな車体はNGだと思う、というのが私のコメントです。なぜなら、調達価格よりも維持費の方が一般に高価だからです。

安価な装甲車の必要性はその通りと思います。VBMRだって25tの車体で2WS-6WDと足回りを簡素にしています。VABは13tで2WS-4WDでした。なので、小松の装甲車を流用するとしても、20tで 2WS-4WDとかに簡素化することは必須と思います。
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完璧なものじゃなくてもいいのだから (sleepy)
2022-10-08 00:22:29
またちょこっとコメント。
本文、コメント、いろいろと同感です。陸自のこの手の装備は前々から完璧を求め過ぎる気がします。装輪装甲車(改)然り、96装甲車だって式通信車や救急車、平台車、迫撃砲牽引車などバリエーションは他にも作れただろうに。

むしろ既存車両の流用で仕様も割り切った安いものを1000両揃えられたら運用サイドでいかようにも工夫できるのではないかと夢想します。3・1/2トラックに装甲ボディを乗せただけのとか。
ベース車両は既に大量配備されていて整備基盤共通化もでき、トラックですからストレッチして大型化・4輪短縮版にして小型化、ボディを変えれば2人乗りから20人乗りまで自由自在、等々。
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