北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

T-38は何故墜落したのか?【2】各国留学生迎えるアメリカ空軍と国防語学研究所英語語学センター英語課程

2023-05-13 20:11:41 | 国際・政治
■二度の空軍事故調査
 日本国内では基本的に英語による意思疎通を必要とせず高等教育を受ける事は可能です、逆に英語だけでの日常生活を送る方が日本では難しい。

 アメリカ空軍主幹の国防語学研究所英語語学センターという組織が中心となりまして、テキサス州サンアントニオのラックランド基地において、アメリカ留学の各国空軍士官が先ずここで英語課程を履修、ここで合格しなければアメリカでの操縦訓練を受けることは出来ません、日本でT-7練習機での練習課程を受けていた場合でも、例外はありません。

 英語課程、難易度は“アメリカ人と電話での議論ができる程度”が最低ラインとされていまして、最終試験では事前に内容を知らされていない状況で電話を用いて試験を行うとのこと。ここを課程修了となりますと、同じテキサス州のランドルフ空軍基地に移動、T-6練習機という、レシプロだがエンジン出力が大きい練習機による訓練課程へとすすむのです。

 T-38練習機での練習課程はその次となっていまして、基地もテキサス州からミシシッピ州のコロンバス空軍基地へ移動、超音速のT-38練習機による訓練が開始される。T-38練習機は1950年代の設計ではありますが改良と補強が行われています、最近後継機のT-7A練習機が完成しましたが、脱出装置などの不具合から量産開始は2025年まで遅れる。

 超音速練習機の基本訓練から他の基地への航法訓練、夜間飛行訓練などを経て念願のウイングマーク授与、となるわけです。そして最終段階で8週間、今度はAT-38というレーダーを搭載した高等練習機による戦闘機操縦訓練を行う。昔自衛隊ではT-2練習機が充てられ、いまでは少々厳しいと指摘があるけれどもT-4練習機により行っている課程です。

 航空学生と幹部候補学校課程修了者が戦闘機操縦士へ進む、こう説明しましたが、いろいろ調べてみますと、ほぼ航空学生から米国留学へ進む事例はここ十年間無いということです。差別、と思われるかもしれませんがここには事情があり、航空学生はその途中で幹部候補生学校へ飛行幹部候補生として入校しなければなりません、学校は奈良にあるのです。

 奈良の幹部候補生学校課程入校は、全員同じ時期に入学するために途中入校という制度はありません、そして米国留学課程の場合は期間が一年半から二年弱という、数か月間の不確定要素があるためで、まだ幹部ではない航空学生を米国留学に派遣しますと、航空自衛隊は旧軍の反省から操縦士が全員幹部自衛官という制度を採っているため、厳しいことが。

 飛行課程は中断して幹部候補生課程へ進むという選択肢が日本国内ならばあるのですが、米国留学課程を中断して23週間幹部候補生課程を履修、という方法は、先ずビザ取得が難しい、往復の航空券はじめ予算が一回の渡米と二回の渡米では大きくなりすぎる、アメリカで借りるVOQ独身幹部官舎の問題、などなどあり、幹部が派遣されるのはこのため。

 モンゴメリー空港でのT-38練習機事故、学生操縦士である一等空尉は2019年に六か月間の英語訓練をアメリカにおいて受けており、また留学課程の最初に行われるラックランド基地での英語理解度試験には合格しています。国防語学研究所英語語学センターの水準では、この試験に合格すると、語学的に伸びる素養有、として教育課程にすすみます。

 国防語学研究所英語語学センターでの成績は、事故調査報告書によれば、平均から平均より少し上、成績はつけられていますが、関係者の聞き取り調査などから“語学の壁”に苦しんでいたという証言、技術的航空用語を話すことや理解に苦労しており、操縦席では語学という集中と操縦という集中、両方を同時に遂行することができなかったとされている。

 米国留学課程、アメリカ空軍ではこの2021年事故そのものの影響よりも、この事故を受けての航空自衛隊の萎縮の方が問題だという認識があるようです。これを受け、アメリカ空軍全体で訓練施設の点検が行われるとともに、航空自衛隊関係者とともに何度かの検証会合が開かれているのですが、問題とされているのは、英語教育期間が十分であったか。

 アメリカ空軍によれば、アメリカは同盟国や友好国から毎年100か国6000名の教育訓練を受け入れているという、しかし、この中で国防語学研究所英語語学センター英語教育課程を履修する操縦士課程留学生は50か国の350名という。6500名に対して350名はあんまりだ、と思われるかもしれませんが6500名な操縦士以外を含めた留学生の総数です。

 350名という人数は、アメリカが受け入れている留学生のうち、NATO加盟国からの留学生は、英語教育の必要がないとして受けていないためです。オーストラリアやニュージーランドといった英語圏、欧州でもスウェーデンなどNATO加盟国でなくとも英語話者が多くこうした問題はないのでしょう。一方、無線を通じた会話は難しい部分もあるのです。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【京都発幕間旅情】榛名さん... | トップ | バフムト後退-ロシア国防省が... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

国際・政治」カテゴリの最新記事