「物理におけるアナロジー」というテーマで簡単な即席の話をしたことがある。それは私が E 大学の在職していたころに、主宰してやっていた、高校と大学の連携の会合においてであった。
実はそういう話をするという予定ははじめなかったのだが、お願いしていたトークをする講師が急に都合でできなくなったというので、世話人をしていたため急きょ穴埋めの話をしたのであった。
その4ページほどのメモが私のファイルから最近見つかった。それで、少し時間をとってそのメモを補充したエッセイを書いてはどうかと思い始めている。これは別に私には限らないことだが、力学での振動を表す微分方程式はまったく同じ形の方程式がもちろん変数や定数を変えて例えば電気回路で成り立つということは良く知られている。
そういう類の話をできるだけ集めてみたいという希望をもっている。アナロジーが発見の論理として有効なのかどうかはわからないが、そういうものの見方を人はする。
たとえば、放射性の元素の数が半分になる時間を「半減期」というが、それと同じように物質に光が吸収される現象を記述する方程式で光の強さがちょうど半分になる物質の厚さを「半価層」という。すなわち、光の吸収を表す微分方程式は放射性元素の崩壊の方程式とまったく同じ形になる。
結晶物理学で無限に大きな結晶を考え、その結晶で並進と回転不変性を仮定するが、それは宇宙物理学では宇宙の等方性と、一様性を仮定する。これは分野はちがうが人間というものは同じようなアプローチをするものだということを示している。そのような項目を20ほど上げて簡単に説明をしたのであった。
そういう、「ものが変わっても本質が同じ」というか、そういう考え方を強調したのは物理学者の高橋秀俊さんだった。ほかにもその同じようなことを考えた人はたくさんおられるであろう。また大学受験のための参考書にもそういう記述があるものもある。
私がその本で勉強したことはないが、培風館から出されていた高校物理の参考書に吉本市先生が、力学の並進運動の運動方程式と剛体の回転運動の運動方程式が同じ形の式で表されることを強調されていたことを知っている。
もちろん、並進運動の質点の質量 m は剛体の回転運動では慣性モーメント I に置き換わるし、変位を表していた x は回転角 \theta に置き換わる。また力 F は力のモーメント N におきかえられる。
こういったアナロジーを使った物理の理解の仕方もある。別にこういう理解ができないといけないということもないが、そういったエッセイを書いてみたいという気持ちはもち続けている。
(2023.11.14付記)
私の勤めていたE大学の工学部で同僚だったA教授の学内での講演を聞いたことがあるが、流体工学が専門だったA教授も同じような見解を話されていた。
彼は流体工学が専門だが、電磁気学にも同じようなものの見方ができるというような話だったかと思う。A教授はその後E大学の学長までされた方であった。