「数学教室」という教育系の雑誌だが、先月は複素関数のことが書かれていて、複素関数に最近関心があるから、そのシリーズを関心をもって読んでいる。
ところで、今月はオイラーのツェータ関数のことが書かれている。\zeta (s)で s >1 ならば、問題がないが、s=1とか s<0 のときに使うと問題が出てくる。それはこれらの場合には\zeta (s)が発散して収束しないから、これらの場合には使えないはずだ。もっともオイラーはこの場合にも使ったという話が出てくる。
ひどい場合には s=-1 とか s=-2 とかの値を求めている。これはオイラーがした過ちであるが、それをそのまま書いている。もちろん、著者の N さんはそのことを先刻ご承知のはずである。だが、ちょっとだけ言い訳めいたことが書かれているが、それ以上には詳しくは触れていない。
これは連載物のページ数が限られているからしかたがないのかもしれない。だが、やはりちょっときちんとした注釈をつけておくべきだという気がする。これと同じような記事を雑誌「数学セミナー」でも見たような気がする。
雑誌「数学セミナー」は数学好きの人が読むのだからまあいいとして、「数学教室」なんて教育系の雑誌では書く内容によほど注意して書いてほしいというのは余計な注文だろうか。
次号にそのあたりの事情を書いてくださるのかどうか。
\zeta (-1)=1+2+3+・・・=-1/12 (正の数をたして行ったはずだのに和が負の数となっている)
\zeta (-3)=1+2^{3}+3^{3}+・・・=1/120 (1だけでも1/120を超えているのに和がそれよりも小さい)
だとかのオイラーの推論はおもしろいけれど、それがあまり数学のことを知らない人に本当に成り立つなどと誤解されたら困るのではなどと考えてしまった。
もっとも「夢を育てる遊び心の数学」というシリーズを読む人はかなり数学がわかる人しか読まないだろうから、ちょっとくらい、おかしな推論をしたとしても誰もそれをまともに信じたりはしないから、いいのだろうか。(どこが論理的にいけないのかというと、上の2つの例だと無限級数が和をもたない例だから、それを和をもつとするところがいけない。)
これらの推論をしたオイラーの議論では
1-x+x^{2}-x^{3}+・・・=1/(1-x) は |-x|<1 のときにのみ成り立つという前提だったのに、その条件がみたさないときに使っている。
もちろん |-x|<1 を超えた領域に 1-x+x^{2}-x^{3}+・・・ を 1/(1-x) として解析接続できるのであろうが、それはその解析接続された領域で 1-x+x^{2}-x^{3}+・・・ が和をもつことを意味するわけではない。
この記事の終りの方に\zeta 関数の積分表示が導出されていて、その積分表示ではs<0でも収束するのかなと思ってちょっと手を動かして見たが、その積分表示でも積分は発散するということがわかった。当然かもしれないけれど。
(2018.2.19 付記)雑誌「数学教室」の記事の批判めいたことを書いたが、昨日、庭にある書庫から岩波講座の「現代数学の基礎」の分冊である『数論1』をとりだしてきて、見るともなく見ていたら、\zetaという章があり、解析接続によるものであろうか、上で私が批判した点の結果が出ていたようである。今日その本を仕事場に持ってくるのを忘れたので、逐一調べることができないが、多分、解析接続で上の結果を正しく求めることができるのであろう。ただ。そういう正当化は後でされるとしても、オイラーの導出法は許されるものではないというのが私の現在の見解である。