などという言葉はどの独和辞典を引いても出てこない。だが、es reineltという表現が私のまわりの人たちの間でもう何十年か前によく使われた。
非人称表現という表現がドイツ語にある。こういう表現はフランス語にもあるが、「雨が降る」だとか「雪が降る」とか天候をいうときに使うのが普通である。
たとえば、Es regnet (雨が降る)とか es schneit (雪が降る)とかである。フランス語なら、Il pleut(雨が降る)とか Il neige(雪が降る)とかにあたる(注)。こういう表現は天候をいうときに多いが、それだけではなく、時刻をいうときにもつかう。
Es ist 9.15 Uhr(これは読むときはエス イスト ノイン ウーア フンフチェン)だとかである。もっとカジュアルにはEs ist Viertel nach 9だとかいう。これだと9時15分となる。
ドイツ語でちょっと私が馴染みにくいのが、たとえば、Es ist halb 10(エス イスト ハルプ ツェーン)でeある。これは「10時に向かってあと30分」というので結局は9時半なのだが、10 (zehn)が出ているので、どうも10時半かと間違えてしまう。Es ist Viertel vor 10だとこれは10時10分前である。この場合にはvorと前置詞が入るのでまだいいが、 Es ist halb 10はvorだとかnchだとかという前置詞が入っていない。
こういう表現はもちろんドイツ語を母語とする人たちには絶対誤解を招かないから、これは私に特有の難点なのであろう。
ところで、冒頭のEs reineltとはどういう意味なのであろうか、たぶん推測だが、Reineltという人がいつも楽しげでまわりに陽気な雰囲気を与えていることを表現するために、ユーモアをこめて作った和製の非人称表現なのであろう。これをつくった人が誰かは確かめてはいないが、いま金沢大学のドイツ語・ドイツ文学の教授をしている N さんか、高知大学の名誉教授の M さんあたりであろう。
(注)「雪が降る」という歌詞が繰り返されるアダモのシャンソンがあるが、このときの「雪が降る」はIl neige(イル ネージュ)とは歌われず、Tombe la neige(トンブ ラ ネージュ)である。