加法公式の謎というほどでもないが、三角関数のcos 関数の加法公式はよく知られているように、
\cos (A+B)= \cos A \cos Bー\sin A \sin B
である。 一方、sin関数の加法公式は
\sin (A+B)=\sin A \cos B+\cos A \sin B
であるから、sin関数の加法公式は\sin A \cos Bと \cos A \sin Bとが足し合わさっており、+の記号でつながれている。ところが、、cos 関数の方は
\cos A \cos Bー\sin A \sin B
となっており、\cos A \cos B+\sin A \sin Bとはなっていない。それで私などはどうも対称性を欠くという気がする。
ところが、複素数の極表示では
e^{iA}e^{iB}=e^{i(A+B)} (Eulerの公式)
から
\cos (A+B)+i \sin (A+B)
=(\cos A+i \sin A)(\cos B+i \sin B)
=(\cos A \cos Bー\sin A \sin B)+i (\sin A \cos B+\cos A \sin B)
となるので、この複素数の極形式から、加法公式を導くことができるのだが、それだけではなく、後世になって考案された、複素数の虚数単位 i^{2}=ー1を平面幾何ではすでに予期していたかのように思われるのはとても不思議である。
なんというのか表現を知らないが、予定調和とでもいうのだろうか(注)。
(注) 予定調和という語の意味をあまり詳しく知らなかったので、辞書を引いてみたら、「世界の秩序は、神があらかじめ定めた結果だとする説。ライブニッツが唱えた」とあった。
いや、単純に神様が世界の秩序を定めたなんて考えをとらない私だが、それでも虚数単位 i の基本的性質を加法公式のところで反映するようになっていたと知ったときには、不思議な感じをもった。