自分が書いた文章だが、それでも唐突感が何回読んでもぬぐえなかったのが、『四元数の発見』の第6章「四元数と空間回転3」であった。特に6.3の「直交補空間」はベクトル空間、計量(ユークリッド)ベクトル空間の話をあからさまに言及しないで書いた。そういうことだから、第6章を書き直すのは不可欠であった。
ここも査読者のKさんからはっきりと指摘されたところであったが、ここも補注で補って書き直しはしなかった。ところが時間が経って何回も読み直すとどうも6.2節までと6.3「直交補空間」とがつながっていないのを実感した。
ところが、どう書き換えたらいいのかがよくわからなかった。それで違和感があるということをもう7,8年くらい感じて来た。最近になって、これはベクトル空間とか計量ベクトル空間の話があったのちに直交補空間の話があるべきだったとようやく気がついた。
この箇所もKさんからベクトル空間の直交性の定義がないと指摘をうけて、この直交性の定義を補注に付け加えてその場しのぎを行った。実はこの箇所は私がポントリャギンのテクスト『数概念の拡張』(森北出版)の4章「四元数」を読んで、わからなかったことが関係していた。
この部分には補注を付け加えておいたのだが、やはり第6章にきちんと書くべきだったろう。普通にスカラー積(内積)を定義してあれば、迷わなかったのだが、あからさまにこの定義がされてなかった。
『数概念の拡張』には訳者よる脚注があったのだが、それを正しく読み取れなかった。このことは一度、数学者のNさんに相談したのだが、彼は私が深刻に悩んでいると思わなかったらしく、的確なアドバイスをもらえなかった。
それで疑問をそのままに話が進んでしまい、本の原稿が完成した後で、Kさんの「四元数の直交性の定義が欠けている」との指摘された。
それで困って、ようやく複素数の場合にどう取り扱っているかを他の書籍で調べて、四元数の場合も同様であると確信がもてたのであった。
(付記)複素数をベクトル空間と考えることができるのならば、四元数もベクトル空間と考えることができる。複素数の内積の定義と同じように四元数の場合も内積を定義すればよかった。