これは以前に「燧」という雑誌に「ドイツ語圏世界の科学者」というタイトルで掲載されたものの(2)である。
(2)ミュラー (K. Alex Mueller 1920- )
べドノルツ (J. Georg. Bednortz 1950- )
ミュラー、べドノルツと聞いても一般の人はもちろん超電導を専門にしない物理学者は何をした人たちだったんだろうと思うかもしれない。かく申す私もそのうちの一人である。しかし、高温超電導体研究の端緒を与える研究を行った学者だといえば、物理学者ならずとも「ああ、あの超伝導フィーバーを引き起こす研究をした人たちだな」と思い及ぶに違いない。これほど世界を賑わせた画期的な研究は最近あまりなかった。超伝導研究に世間の関心を集めたせいか、マスコミでは物理学の主流は高エネルギー物理学から固体物理学に移ったとまで述べるものが多くなった。
液化窒素の温度(零下196度)で冷却することによって超伝導現象を呈するセラミック超伝導体はいままで高価な液化ヘリウムによって冷却しなければならなかった超伝導の世界を大きく拡げてしまった。特にその工学的応用が大きく期待されている。
「電力貯蔵」「超伝導磁石による核融合発電」「損失のない超伝導送電」「超伝導磁石による高速モノレールカー」等々。これらは、実際には21世紀以降の技術的課題となるであろうが、だからといってミュラー、べドノルツの発見の価値が低くなりはしない。
ミュラーはバーゼル(Basel)生まれのスイス人でチューッリヒ連邦工科大学(ETH Zuercrich)の出身、またべドノルツはミュンスター生まれのドイツ人でミュンスター大学からETHに学んだという。
両人とも現在IBM チューリッヒ研究所所属、1987年度のノーベル物理学賞を受賞した。(1988.9.28)
(参考文献)
1.科学 58巻1号(1988)(岩波書店)
2.中嶋貞雄、『超伝導』(岩波新書)