[このエントリーの初投稿日時は2014年11月19日午後12時]
安倍晋三首相(自民党総裁)が第47回衆院選の勝敗ラインについて
「自民党、公明党(の)連立与党によって過半数を維持できなければアベノミクスを進めていくことはできない。過半数を得られなければアベノミクスが否定されたことになるわけだから私は退陣する」
と語り、定数(475)の過半数(238)を取れなければ、退陣(内閣総辞職して特別国会で首班指名を受けないこと)すると語ったことが話題になっています。
実は、まったく同じ勝敗ラインが9年前の首相(自民党総裁)の解散会見でも言われています。
2005年8月8日の郵政解散後の小泉純一郎首相(自民党総裁)は記者会見で、
「自民、公明両党が過半数の議席を獲得できなかったら、私は退陣する。郵政民営化反対勢力と協力することはない」「国民が郵政民営化は必要だと過半数の議席を与えてくれれば、参議院の皆さんも気を変えて協力してくれると確信している」
と語っています。当時の新聞が翌日付1面で報じました。
これを受けて、2005年8月9日の民主党代表記者会見で、岡田克也さんは「民主党が政権を取れなければ、代表にとどまるつもりはまったくない」と語りました。
このように衆議院小選挙区による二大政党化によって、国民が総理大臣を決める政治を設定しました。
選挙結果としては、自民党は得票率38%で議席占有率61・7%、公明党は得票率13%、議席占有率6・5%となり、連立与党で、3分の2条項の力を得ました。
首相が、過半数を割れば、退陣するのは当たり前のことです。
日本国憲法第67条は、「内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案に先立ってこれを行う」とあります。
特別国会では、実際には院の構成を先に定めますが、その後、首班指名(首相指名)選挙になります。
仮に自民党と公明党に過半数がなければ、衆議院本会議の決選投票では、安倍晋三さんの得票数が、海江田万里さんの得票数を上回ることはないでしょう。参議院本会議は安倍晋三さんを指名するでしょうが、両院協議会の結果が、衆議院の指名通り、海江田万里さんが国会の議決となり、第97代内閣総理大臣となります。
たとえば、次世代・維新の小選挙区に強い人が、安倍さんに投票するかもしれません。しかし、それ以前に、自民党内で、総裁の責任を問う声が特別国会召集前に上がるでしょう。
憲法はまったく違いますが、前回の2010年5月の英国の総選挙では、ブラウン首相(労働党党首)が過半数割れに追い込まれ、第1党が過半数をもたない「ハングパーラメント(宙ぶらりん議会)」に36年ぶりになりました。ハングパーラメントでも、まずは首相に連立を呼びかける権利があるのですが、第3党の自由党のクレッグ党首(現副総理)は応じるつもりはなく、ブラウン首相はバッキンガム宮殿に向かい、エリザベス女王に退陣を申し入れました。直後にエリザベス女王は、保守党のキャメロン党首(現首相)を呼び、組閣を命じました。このもようはヘリコプター空撮映像で報道され、バッキンガム宮殿前には、多少の保守党員がつめかけ、キャメロン党首の車を見つめました。
広辞苑によると、「当たり前」とは「そうあるべきこと」。
国民が首相を選ぶ、小選挙区二大政党制の実現をめざす、平成6年政治改革法の理念は浸透しているのかもしれませんが、いまだに国民の肌感覚になっていないことを残念に思います。とても残念です。
同時に、私の中で、私がすべきことが、公示前に見つかった気がします。
[首相官邸ウェブサイトから全文引用はじめ]
平成26年11月18日安倍内閣総理大臣記者会見
【安倍総理冒頭発言】
本年4月より8%の消費税を国民の皆様に御負担いただいております。5%から8%へ3%の引き上げを決断したあの時から、10%へのさらなる引き上げを来年予定どおり10月に行うべきかどうか、私はずっと考えてまいりました。消費税の引き上げは、我が国の世界に誇るべき社会保障制度を次世代に引き渡し、そして、子育て支援を充実させていくために必要です。だからこそ、民主党政権時代、私たちは野党ではありましたが、税制改革法案に賛成いたしました。しかし、消費税を引き上げることによって景気が腰折れてしまえば、国民生活に大きな負担をかけることになります。そして、その結果、税率を上げても税収が増えないということになっては元も子もありません。経済は生き物です。
昨日、7月、8月、9月のGDP速報が発表されました。残念ながら成長軌道には戻っていません。消費税を引き上げるべきかどうか、40名を超える有識者の皆さんから御意見を伺いました。そして、私の経済政策のブレーンの皆さんから御意見を伺い、何度も議論を重ねてまいりました。そうしたことを総合的に勘案し、デフレから脱却し、経済を成長させる、アベノミクスの成功を確かなものとするため、本日、私は、消費税10%への引き上げを法定どおり来年10月には行わず、18カ月延期すべきであるとの結論に至りました。
しかし、ここで皆様に申し上げておきたいことは、3本の矢の経済政策は確実に成果を上げつつあります。経済政策において最も重要な指標、それはいかなる国においても雇用であり、賃金であります。政権発足以来、雇用は100万人以上増えました。今や有効求人倍率は22年ぶりの高水準です。この春、平均2%以上給料がアップしました。過去15年間で最高です。企業の収益が増え、雇用が拡大し、賃金が上昇し、そして消費が拡大していく、そして景気が回復していくという経済の好循環がまさに生まれようとしています。
ですから、私は何よりも個人消費の動向を注視してまいりました。昨日発表された7月から9月のGDP速報によれば、個人消費は4月から6月に続き、1年前と比べ2%以上減少しました。現時点では、3%分の消費税率引き上げが個人消費を押し下げる大きな重石となっています。本年4月の消費税率3%引き上げに続き、来年10月から2%引き上げることは、個人消費を再び押し下げ、デフレ脱却も危うくなると判断いたしました。
9月から政労使会議を再開しました。昨年この会議を初めて開催し、政府が成長戦略を力強く実施する中にあって、経済界も賃上げへと踏み込んでくれました。ものづくりを復活させ、中小企業を元気にし、女性が働きやすい環境をつくる、成長戦略をさらに力強く実施することで、来年の春、再来年の春、そして、そのまた翌年の春、所得が着実に上がっていく状況をつくり上げてまいります。国民全体の所得をしっかりと押し上げ、地方経済にも景気回復の効果を十分に波及させていく、そうすれば消費税率引き上げに向けた環境を整えることができると考えます。
そのためにも、個人消費のてこ入れと、地方経済を底上げする力強い経済対策を実施します。次期通常国会に必要となる補正予算を提出してまいります。
財政再建についてお話しいたします。社会保障・税一体改革法では、経済状況を見て消費税引き上げの是非を判断するとされています。今回はこの景気判断条項に基づいて、延期の判断をいたしました。
しかし、財政再建の旗を降ろすことは決してありません。国際社会において、我が国への信頼を確保しなければなりません。そして、社会保障を次世代に引き渡していく責任を果たしてまいります。安倍内閣のこうした立場は一切揺らぐことはありません。
来年10月の引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています。
2020年度の財政健全化目標についてもしっかりと堅持してまいります。来年の夏までにその達成に向けた具体的な計画を策定いたします。
経済再生と財政再建、この2つを同時に実現していく。そのための結論が本日の決断であります。
ただいま申し上げた内容を実現するために、来年度予算の編成に当たるとともに、関連法案の準備を進め、来年の通常国会に提出いたします。
このように、国民生活にとって、そして、国民経済にとって重い重い決断をする以上、速やかに国民に信を問うべきである。そう決心いたしました。今週21日に衆議院を解散いたします。消費税の引き上げを18カ月延期すべきであるということ、そして平成29年4月には確実に10%へ消費税を引き上げるということについて、そして、私たちが進めてきた経済政策、成長戦略をさらに前に進めていくべきかどうかについて、国民の皆様の判断を仰ぎたいと思います。
なぜ今週の解散か説明いたします。国民の皆様の判断を仰いだ上で、来年度予算に遅滞をもたらさないぎりぎりのタイミングであると考えたからであります。
現在、衆議院において、私たち連立与党、自民党、公明党は、多くの議席をいただいております。本当にありがたいことであります。選挙をしても議席を減らすだけだ、何を考えているのだという声があることも承知をしています。戦いとなれば厳しい選挙となることはもとより覚悟の上であります。
しかし、税制は国民生活に密接にかかわっています。代表なくして課税なし。アメリカ独立戦争の大義です。国民生活に大きな影響を与える税制において、重大な決断をした以上、また、私たちが進めている経済政策は賛否両論あります。そして、抵抗もある。その成長戦略を国民の皆様とともに進めていくためには、どうしても国民の皆様の声を聞かなければならないと判断いたしました。信なくば立たず、国民の信頼と協力なくして政治は成り立ちません。
今、アベノミクスに対して失敗した、うまくいっていないという批判があります。しかし、ではどうすればよいのか。具体的なアイデアは残念ながら私は一度も聞いたことがありません。批判のための批判を繰り返し、立ちどまっている余裕は今の日本にはないのです。私たちが進めている経済政策が間違っているのか、正しいのか。本当にほかに選択肢があるのかどうか。この選挙戦の論戦を通じて明らかにしてまいります。そして、国民の皆様の声を伺いたいと思います。
思い返せば、政権が発足した当初、大胆な金融緩和政策に対しては反対論ばかりでありました。法人税減税を含む成長戦略にも様々な御批判をいただきました。しかし、強い経済を取り戻せ、それこそが2年前の総選挙、私たちに与えられた使命であり国民の声である。そう信じ、政策を前へ前へと進めてまいりました。岩盤規制にも挑戦してまいりました。
あれから2年、雇用は改善し賃金は上がり始めています。ようやく動き始めた経済の好循環、この流れを止めてはなりません。15年間苦しんできたデフレから脱却する、そのチャンスを皆さんようやくつかんだのです。このチャンスを手放すわけにはいかない。あの暗い混迷した時代に再び戻るわけにいきません。
デフレから脱却し、経済を成長させ、国民生活を豊かにするためには、たとえ困難な道であろうとも、この道しかありません。景気回復、この道しかないのです。国民の皆様の御理解をいただき、私はしっかりとこの道を前に進んでいく決意であります。
私から申し上げたいことは以上であります。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、皆様から質問を頂戴します。
最初は幹事社からいただきますので、所属とお名前を明らかにした上でお願いいたします。どうぞ。
(記者)
幹事社のNHKの原と申します。
今日まで行われました消費税の引き上げをめぐる点検会合でも、引き上げるべきだという意見が多く聞かれたわけですけれども、消費税の引き上げを先送りした場合、財政再建に対する日本の取り組みに疑問符が付けられ、マイホームローンなどにも影響が及んで国民生活に影響が及ぶことはないのでしょうか。そうした懸念がないのかまず伺います。
それと、先ほど総理自身も厳しい戦いになるとおっしゃっていましたけれども、与党の現有議席を考えたときに、議席は減少するのではないかという声が与党内にもあります。勝敗ラインについてどのようにお考えでしょうか。
(安倍総理)
財政再建の旗を降ろすことは決してありません。そして、平成29年4月に確実に消費税を10%へと引き上げてまいります。そして、2020年度の財政健全化目標も堅持してまいります。そのことによって、国際的な信認の問題は発生しないと確信しています。
経済の再生なくして財政健全化はできません。デフレ脱却なくして財政健全化は夢に終わってしまいます。だからこそ、断固としてデフレ脱却に向けて進んでいくべきなのです。私は、十分に国際的な理解を得られると考えています。
前回の総選挙において、自公合わせてたくさんの議席をいただいたこと、本当に感謝いたしております。しかし、税制こそ議会制民主主義といってもいいと思います。その税制において大きな変更を行う以上、国民に信を問うべきであると考えました。
そして、その上で自民党、公明党連立与党によって過半数を維持できなければ、私たちの三本の矢の経済政策、アベノミクスを進めていくことはできません。過半数を得られなければアベノミクスが否定されたということになるわけでありますから、私は退陣いたします。
(内閣広報官)
それでは、幹事社のほうから、もう一問いただきます。
どうぞ。
(記者)
西日本新聞の宮崎です。
今回の解散については、野党のみならず、与党や、それから国民からも大義がないという批判があります。今、総理は税制という重大な決断をした以上、国民に信を問うとおっしゃいましたが、7-9のGDPの速報値が市場予想を大きく下回るマイナス1.6ということもあり、法律どおり、景気条項にのっとって増税を先送りして、それを国会で諮れば、野党の方もほとんど先送りには賛成しているわけですから、その方が選挙で政治空白をつくるよりもいいのではないかと、経済対策に選挙で空白をつくるよりも、今は経済対策に専念すべきではないかという声があります。こうした手段をとらずに、あえてこの時期に解散で民意を問う理由を御説明ください。
(安倍総理)
まず、申し上げておきたいことは、ではなぜ2年前民主党が大敗したのか。それは、マニフェストに書いていない消費税引き上げを国民の信を問うことなく行ったからであります。
平成24年1月、我が党の総裁であった谷垣総裁の代表質問を覚えておられるでしょうか。税こそ民主主義である。まさに議会制民主主義は、税とともに歩んできたのです。その税において、公約に書いていないことを行うべきではない。我々は解散総選挙を要求しました。私たちは、先の総選挙において、3党合意に従って3%、そして2%、5%から10%へ引き上げるということをお約束してまいりました。18カ月間の延期、さらには29年4月には景気条項を外して確実に上げる、これは重大な変更です。そうした変更については、国民の信を問う、当然のことであり、民主主義の私は王道と言ってもいいと思います。
そして、まさに3年後消費税を2%引き上げていくというお約束を新たにいたしました。その状況をつくっていくためには、三本の矢を、成長戦略をしっかりと推し進めて、景気をしっかりと回復させ、賃金を上昇させていかなければいけません。
こうした政策を進めていくためにも、国民の皆様の理解が必要です。国民の皆様の御協力なくしてこうした成長戦略のような困難な政策は前に進みません。だからこそ、私は税制において、そして、この成長戦略を進めていく上において解散総選挙をする必要がある。国民の皆様の声を聞き、国民の皆様とともに進んでいきたい。そのことによって確実に3年後に私たちは、消費税引き上げの状況をつくり出すことができると考えたわけであります。
(内閣広報官)
それでは、ここから幹事社以外の皆様から質問を頂戴しますので、私が指名をした方、所属とお名前を明らかにした上で質問をお願いいたします。
それでは、芳村さん。
(記者)
読売新聞の芳村と申します。
消費増税に伴う低所得者対策についてお聞きします。公明党は、軽減税率を10%引き上げ時に導入するよう主張しています。それに対して、これまで自民党では、時間的な制約から慎重な声がありました。今回、1年半先送りすることで、2017年4月から軽減税率を導入するお考えはありますでしょうか。その際、対象品目については、どのようにお考えになりますか。
(安倍総理)
軽減税率導入に向けて、自民党、公明党、両党間でしっかりと検討していきたいと思います。両党には税の専門家がおります。この間において、両党間でしっかりと検討していくことになります。
(内閣広報官)
それでは、次の質問をいただきますので、挙手をお願いしたいと思います。
西垣さん。
(記者)
フジテレビの西垣です。お疲れさまです。
今、総理が会見の中で18カ月先送りすることにした消費税について、必ず上げるということをおっしゃいましたが、個人消費などについても現状、苦しいという指標もある中、この約束をどのように選挙で問う場合に、国民としては信頼する、政権としては経済政策も含めてこれを信じるに足るということは、政権として何が今後掲げられるのでしょうか。
(安倍総理)
一昨年の12月に安倍政権が発足をいたしました。発足後、直ちにマイナス成長からプラス成長に転じました。これはまさに私たちが進めている経済政策の成果であると思います。
そして、今年消費税率を引き上げました。しかし、先ほど申し上げましたように、残念ながら消費税率の引き上げが個人消費を押し下げていくことになってしまった。ですから、私たちはしっかりと三本の矢の政策を進め、来年、再来年、そしてそのまた翌年、賃金が確実に上がっていく。名目所得が上がり、そして実質賃金も上がっていく状況をつくっていくことによって、そういう経済をつくっていきたい、また、経済をつくっていくことができると思っています。
有効求人倍率は22年ぶりの高水準ですし、そして、本年4月には15年で最高の賃上げ率になっています。また、例えば倒産件数においても24年ぶりの低水準になっています。また、高卒、大卒内定率も上がっています。特に高卒の皆さんにおいては顕著に上がっているのです。間違いなく私たちが進めている政策は成功しています。
ただ、消費税率引き上げによって押し下げられた個人消費、そこにおいてまだ2年連続で上げていくにはデフレ脱却が危うくなると判断したところでありますが、3年間あれば、そしてこの選挙においてしっかりと信任を得て三本の矢の政策をちゃんと前に進めていけば、必ず約束を果たすことができると確信しています。
(内閣広報官)
もう一問程度できると思います。では、関口さん。
(記者)
ウォールストリートジャーナルの関口と申します。
今回の選挙は、消費税先送りやアベノミクスの道筋の是非を有権者に問う選挙とされておりますが、安倍政権は経済成長以外にもエネルギーや安全保障など重要施策を抱えています。総理は今回の選挙の結果を成長戦略だけでなく、原発再稼働や憲法解釈によって行われる集団的自衛権の関連法案への信任と捉えられるのでしょうか。
(安倍総理)
自民党は消費税もそうでありますが、常に選挙において逃げることなくしっかりと国民の皆様にお示しをしています。ですから当然、エネルギー政策、原発政策あるいは安全保障政策等についても党の公約にきっちりと書き込んで、この選挙戦堂々と闘っていきたい。有意義な論戦を行っていきたいと考えております。
(内閣広報官)
予定をしておりました時間を経過いたしましたので、以上をもちまして記者会見を終了させていただきます。皆様どうも御協力ありがとうございました。
(安倍総理)
ありがとうございました。
[全文引用おわり]