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私の札幌生活も17年目を迎えました。これまでのスタイルを維持しつつ原点回帰も試み、さらなるバージョンアップを目ざします。

長谷部誠著「心を整える」

2011-08-14 22:47:07 | 本・感想

 プロサッカー選手長谷部誠は言う。「心は鍛えるものではなく、整えるものだ。いかなる時も安定した心を備えることが、常に力と結果を出せる秘訣だ」と…。サッカー選手として成功した原因を、抑制が効いていながら隠すことなく自分を語る好著だった。 

          

 サッカーWC南ア大会の決勝トーナメント一回戦で日本がPK戦の末パラグァイに惜敗した直後、ゲームキャップテンだった長谷部選手はマイクに向かって「本当に熱い応援ありがとうございました。応援が力になったので感謝しています。ほとんどの選手がJリーグでプレーしているので、Jリーグにも足を運んで盛り上げてもらいたいです」と話した。
 自分はドイツでプレーをしていて、Jリーグの選手ではないのに自分を育ててくれたJリーグの隆盛を願って話したこの言葉にグッときたのを覚えている。
 そんな長谷部選手が著した「心を整える」という著書の販売数が100部を突破したと報道されていた。

 私は本の書評的なことをブログに取り上げることをこれまで控えてきた。それは自分の本の読み方に自信がなく、稚拙な感想を披瀝することを恐れていたからだった。
 そんな自分への禁を破り、敢えてこの本を紹介してみたい。

 長谷部選手は冒頭でこう言います。
「僕には突出したテクニックがあるわけでもないですし、試合を決定づけるフリーキックを得意にしているわけでもありません。監督やサッカー関係者からしてみたら、評価しづらい選手です。でも、僕は生き残ってきました」
 こうした書き出しから、自分がプロの世界でなぜ生き残ってくることができたのか、ということについて自己分析しています。それはこの著書の副題に~勝利をたぐり寄せるための56の習慣~として述べられています。
 プロサッカー選手という華やかな世界に身をおきながら、長谷部選手はストイックに自分自身を律していることがこの本から伺えます。

 56の全てを紹介することはもちろんできませんが、たとえば「意識して心を鎮める時間を作る」、「マイナス発言をしない」、「遅刻は絶対しない」、「迷ったときは難しい道を選ぶ」などなどです。
 長谷部選手が本書の中で言っていることはけっして難しいことではないのですが、彼はそうしたことを誠実に果たしているようです。

 長谷部選手の人柄、そして長谷部選手が周りからどう見られているか。それを物語るエピソードが描かれている部分を原文のまま紹介します。
 それは南アWCの直前に岡田監督からゲームキャップテンに指名されたときのエピソードです。

 「ひょっとしたら自分がキャプテンマークを返せば、逆にチームはまとまるかもしれない……」
 そう考えた僕は部屋の受話器を取った。
 「監督、今から部屋にうかがってもいいですか?」
 僕は息を整えて、自分の部屋を出た。
 監督の部屋のドアをノックすると、「おう」と声がして、ドアを開けてくれた。部屋は選手の部屋よりも少し広かった。ソファがL字に置かれていて、応接のスペースがあった。監督はソファに腰を下ろし、話を切り出した。
 「話って何だ。何かあったのか?」
 僕は言った。
 「今、僕がゲームキャプテンをやるのは、チームに与える影響が大きすぎると思います。キャプテンを辞退させてもらえないでしょうか」
 岡田監督は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの柔和な表情に戻った。
 「何だ、オマエも意外にまわりに気を遣っているんだな。分かった。この件は一旦オレに預からせてくれ」
 「ありがとうございます。ただ、どんな結論になろうと監督の決定に従います」
 このあと岡田監督は(中澤)佑二さんを部屋に呼び、話し合いの場を持った。詳しい話は分からない。僕は自分の部屋に戻り、電話が鳴るのをひたすら待った。

 「ハセベ、今来られるか?」
 2人の会談が終わると、岡田監督は再び僕を呼びだした、
 じっと目を見つめ、真剣な表情で監督は言った。
 「やはりゲームキャプテンはオマエにやってもらう。オマエは誰とでも分け隔てなく話せるし、独特の明るさがある。何か特別なことをやろうとしなくていい。今までやっていたとおり、普通に振舞ってくれ」
 監督の決定に従うと言っていた以上、もう反論の余地はない。
 「分かりました」
 僕は覚悟を決め、自分にできることをやろうと思った。のちに監督からはこうも言われた。
 「オマエは声を出すことでも、プレーでもチームを前に進めることができる。自分なりのリーダーシップでみんなを引っ張ってくれ」

 このエピソードに長谷部選手がなぜ日本代表チームのキャップテンを任せられたかがよく表れていると思います。

          

 誠実でひたむきな姿勢、それを隠そうともしないナイスガイ(古い表現かな?)長谷部選手の著書が100万部も売れたというが、彼の生き方、考え方が多くの人たちから受け入れられたということだと思います。私もまた彼の生き方、考え方に共感を覚えるとともに、自分の生き方、考え方を反省する良い機会となりました。

 プレーも人柄も堅実で、チームメートからの信頼が篤い長谷部選手は9月から始まるブラジルWC予選でもきっとキャップテンマークを腕に巻いてピッチに現れるでしょう。