横浜市立大を出て、メキシコでプロサッカー選手、そこで習得したスペイン語で南米(主としてペルー)での旅行ガイド、そして(公財)日本交通公社での旅について調査・研究職を経て、現在北大の准教授へと華麗なる転身を続けた講師のお話は魅力に富んだものだった。
11月22日(木)夜、第4回目の北大CATS公開講座が開講された。4回目は「客層から考える観光地の『売られ方』」と題して高等研究センターの石黒侑介准教授が講師を務められた。
石黒氏のお話はリード文でも紹介したようにご自身の略歴を披露することから始まったのだが、その間にはあのガラパゴス諸島にも二か月間滞在したなど、ご自身の豊富な体験が講義にも彩を添え、楽しくお話を拝聴することができた。
※ 今春旅した小笠原島の旭山山頂から島の出入り口である「二見港」を見たところ。
石黒氏は氏の体験や研究から、観光客を次のように分類するという。
① 基本属性としての、性別、年齢、国籍
② 旅行期間 ロングホール、ショートホール
③ 手配形態 団体、個人
④ 所得層 ラグジュアリー、中間層、Price-sensitive Traveler
⑤ 関心の幅と深度
上記の中から石黒氏は観光客の“深度”に注目するという。つまり、観光客が目的地に対してどれだけ「深く」求めるか、そこに観光業者や観光地は着目することの大切さを説いた。
旅行業界には「ラケット理論」というものが存在するそうだ。このラケット理論とは、観光客の観光行動は居住地と観光地が離れれば離れるほど周遊観光の範囲が広がり(ロングホール旅行者)、反対にその両者が近い場合は範囲を絞って、ピンポイントで観光する(ショートホール旅行者)ことが多いという理論のようだ。
石黒氏はそうしたピンポイントに絞り、観光対象に対して深く求める層が今後増えてくると話されたと私は理解した。
※ 2015年春の八重山諸島の旅で西表島の奥深くにある「マリユドゥの滝」です。
もちろん石黒氏はガイド経験者として、また旅行業について調査・研究した者として、ロングホールの旅行者を団体で受け入れることを拒んでいるわけではない。そのような団体の旅行者に対して、ガイドは「視野と期待と時間をコントロールする」ことが大切であるとした。
石黒氏は国別の旅行者のタイプを面白く紹介してくれた。題して「ステレオタイプの学術的考察」…。
◇米国人 ~ 群れる
◇ドイツ人 ~ 新規開拓型、パイオニア
◇フランス人 ~ 旅先での出会いを求める
◇スペイン人 ~ 知られていないところを静かに巡りたい
と面白い分類を紹介してくれたが、一方で2030年くらいになると、「国籍ベースでのマーケティングは時代遅れ」と話された。
最後に石黒氏は、旅行業の大手アマデウス社が唱えているこれからの旅行者の形態に着目してマーケティングすべき(Tribe Marketing)6つの属性(部族)を使用してくれた。
① ごほうびハンター
② 社会関係資本信奉者
③ 文化愛好家
④ 目的特化人
⑤ シンプルサーチャー
⑥ 倫理的な旅行者
これだけだと分からないと言われる方もいらっしゃるかもしれない。しかし、私も自信をもって説明することができない。メモの方は間違いなかったと思うので、興味のある方は調べていただきたい。
ともかく、石黒氏が私たちに伝えたかったことは、これからは旅行者の形態・目的が変わってくる。観光される側(旅行先)は、そのことを理解・把握しながらマーケティングをしていく必要がある、と伝えたかったのだと理解した。
※ 2016年春の「熊野古道」の旅では写真のような古道を4日間歩き続けた。
ところで私の旅はどうなのだろうか?と考えてみた。
近々の旅では、今春の小笠原島への旅がある。国内の旅としては居住地からはかなり離れたところと言えそうだ。しかし、小笠原島だけを巡るピンポイントの旅である。しかも、旅の手配は移動手段も、宿の手配も全て自分で行った。旅の“深度”という意味ではまだまだかもしれないが、一応石黒氏が話されていたような旅の形態の一つとなっていたのではないだろうか。
その他、熊野古道や沖縄・八重山諸島の旅も “深度”を追求した旅と言えるのではないだろうか。もっとも熊野古道の旅の際は、伊勢神宮や名古屋観光も含まれてはいたが…。
こうした旅の関する講義を聴いていると、また旅に出たくなってくる。