近未来のタイを舞台にしたSF。石油が枯渇し、水没している世界。エネルギーはゾウを遺伝子操作して作り上げたメゴドントによる動力、ゼンマイを利用した動力あるいは瞬発力を利用する武器が使われている。一方、遺伝子操作の技術はメゴドントのみならず、サイボーグである「ねじまき少女」(生殖能力を持たないが、人間以上の身体能力をもつ。日本が作り出して非合法にタイに持ち込んでいる)も作り出す。また、遺伝子操作により様々な食物が作り出され、タイは遺伝子バンクをつくってこれを死守しようとする環境省の白シャツ隊と外国人の技術を利用して国家を支配しようとする通産省の争いという政治的な背景も存在している。一方、タイ王国の少女王への崇敬とピーという精霊の実在は実感されている。
物語はそうしたタイにおける「ファラン」とよばれる外国人による遺伝子操作や政治体制に対する介入の物語とみえ、こうしたセッティングの背後にあるオリエンタリズムが気になるところだ。読者としては、おそらくはアメリカを中心とした欧米のSFファン、実際、本作品はヒューゴー賞/ネビュラ賞/ローカス賞などを受賞するニューロマンサーにカテゴリーされている。タイの読者はどのように感じるのかと思ってしまう。