『テスカトリポカ』
2021年上半期の直木賞受賞作。なんで本書を読むことにしたのか、メモにタイトルがあったので、それをもとに図書館で借用した。とはいえ、一気に読んでしまう作品だった。
中南米の先住民族の信仰と植民地支配の残像、そして、現代社会の様々な矛盾、たとえば、とんでもない貧富の差、金で命を買えること、ストレス社会の中での薬物の蔓延、それに群がる黒組織などなど、これでもかとばかりに、濃密に構成したのが本書、読み上げるのには体力というか、耐性が必要だろう。
同時に、これまで、知ってはいても、突っ込んでは調べようとしなかったこともわかってくる。著者は、一作で上げる収益以上に投資して情報を収集するのが作家としての氏名であると言ったことをインタビューで語っているが、気がついたキーワードをネットでチェックでフォローしながら読むと、この世の中の矛盾が見えてくるだろう。
注目すべきは「キャピタリズム(資本主義)」の派生語(形容する言葉と組み合わされると見えてくる)、どのような現実が現れるか。本作はストーリーや登場人物、組織としてはフィクションではある(著者がそう書いている)が、現象としては、リアリティを持ったノンフィクションであり、読者はそのことをよく知っておく必要があるだろう。文学作品といえど(表現が奇妙かもしれないが)、そうした様々な警鐘(作者の問題意識)を投げかけているとみて、読み込まなければならないのではないか。