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今年最後の小説~ゼロ

2009年12月27日 | 読書
 『永遠の0』(百田尚樹著 講談社文庫) 

 第四章が「ラバウル」となっていて、そこを読んでいるとき頭の中でなぜか「♪さらば、ラバウルよ。また来るまでは~」という歌が繰り返し思い出された。
 きっと幼い頃に家の誰かが唄っていたということだろうと思う。
 気になって検索してみたら、こんなページがあり、ここではその歌よりも動画に写されるそのシーンにぐっと惹きつけられてしまった。

 まさに、この小説の舞台となったようなシーンである。
 出撃、戦闘、そして被弾、墜落という場面が随所に語られる話である。
 そういう私たちにとっては遠い歴史のような事に、どれだけ身を入れて読めるだろうか…戦争を題材とした小説はあまり多く読んでいないが、そんな思いにとらわれることもあった。

 しかし、この『永遠の0』は実に面白く引き込まれるように読めた。
 存在さえ知らなかった実の祖父が実は特攻隊であった、という設定もいいし、知り合いの証言でつないでいく構成も巧みだ。
 そしてその結末は感動的である。

 戦争や特攻を扱った映画、小説などはいつも「生きる」ということはどういうものかを問いかける。
 ここに登場する人物たちのそれぞれがきちんと向き合っている「生」の印象が強く出ていること、そしてそれを今語ることのできない何万人のもの命の存在、そうした重みを強く感じさせられる作品だ。
 『永遠の0』のゼロは「零戦」ということだけではない、もっと深い意味づけができることを気づかされる。

 そして、ことさらに強く出ている気がするのが、当時の指導部の不甲斐なさとそうした組織を作らざるを得なかった国の不幸。
 話題の『坂の上の雲』と照らし合わせたとき、明治維新から歩んできた道筋が知らず知らずのうちに捻じ曲げられてきたことにも考えが及ぶ。

 今年最後の小説になりそうだ。600ページ近い分厚い文庫だったが、いいものを読んだなあと素直に思った。