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師弟関係の正常化

2010年11月03日 | 読書
 『学力は1年で伸びる!』(江澤正思 陰山英男  朝日新聞社)

 山口県山陽小野田市の全小学校において取り組まれた「学力向上・生活改善」のプロジェクトである。
 教育長である江澤氏が自らの考え方を示し、プロジェクトの経緯やデータ結果についてその成果を説明している。いくつかの項目ごとに陰山氏が解説を加えているという構成となっているが、まあ陰山氏の部分はその多くの著書に書かれていることであり、新味があるわけではない。(本の売れ行きには貢献したのかなという穿った見方はできるけど)

 もちろん、市の取り組みにおいては重要な指導者であったし、モジュール学習等の進め方については実に大きな役割を担ったことがわかる。また、計画を始める時期に関して強引なまでのアドバイスはやはり陰山氏ならではなかったか、と思える。

 しかし、この本の一番説得力があるのは、やはり大学教員であったそして地元の寺院の住職でもある江澤氏が教育長に就任し、筋道を立てながら全市を牽引していった部分であり、リーダーとしての矜持を強く感じる。

 いくつか、自分にとっては新鮮に感じる言葉があった。
 短時間に単純なことを繰り返すモジュール授業の指導だからこそ、教師と子どもの信頼関係が育つという。

 これを私は、師弟関係の正常化と呼んでいます。または、師弟関係の初期化とも言えるかもしれません。
 
 さらにモジュールを「師弟の位置関係の訓練」ととらえた発想は、頷かせる。
 訓練とは子供に対して意味を持つということだけでなく、教師にとってもその場が訓練となる。そうした単純な繰り返しの中で子供を見る目を鍛える、見とりと手当をしていく、そういう場で出来なくてどうして他で出来るものか…。

 他には、モジュール授業がどういった学力を伸ばすのか、という面の分析も興味深かった。ともすれば全国学力テストへの対策?という形で組み立てられる計画とはまた一味違う、子供たちにどんな力が必要で、どうしたらそれが身につけられるか、を自分の頭で考え、実践していった本と言えるだろう。

 大事なのは、いつもそこではないかと思う。