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桜と絵本と豆乳と

肌身で知る経験

2011年03月26日 | 読書
 職員の一人が研修会に参加して勧められたという書籍を、私も買い求めて読んでみた。

 『発達障がい児 本人の訴え ~龍馬くんの6年間』(向山洋一監修 東京教育技術研究所)

 昨年の日本教育技術学会で紹介された発達障害を持つ小学生の作文と、いわゆる向山一門の教師たちがその作文に書かれた実態をもとに著した文章を合わせた内容である。

 龍馬くんは6年生の夏休みの自由課題に、自分の障害について調べ、今まで自分がどう思ってくらしてきたのか、どうすればいいのかなどをまとめることに取り組んだ。
 広汎性発達障害について、いくらかの知識はもっているが、障害を持つ本人しかも小学生が書いた文章をこれほどまとまった形で見るのは初めてだった。

 その中で特に気になった記述は、ここである。
 図書館で大声を出し、注意書きをはられ、それ以来図書館に行ってないことに対して、本人なりの対策の文章である。

 信頼していない人からの注意書きは、混乱を招くだけ。正しいやり方は、信頼している大人から伝えた方がいい。

 現場で障害児に接するとき、気を遣う大きなポイントとも言える。
 多くの職員が信頼を得られることが望ましいわけだが、現実にはそうはいかない。そうなるための方策こそ共通理解されなければならない。

 TOSS関係の本は本当に久しぶりだ。23人が見開き2ページずつを受け持って、教科学習や生活などの視点から書いている。
 いつもながらのパターンを持つなあなどと思って読み始めた自分の頭は、先に引用したことの解を求めている。
 つまりは、障害児から信頼を得るために何をなすべきか、という点である。

 間島祐樹氏は、原則を次のように書く。

 教えてほめる。

 確かにその通り。あまりにシンプルすぎるので、小野隆之氏の文で補えば、こうなる。

 正しい行為を教える。そして、できたら褒める。

 ただ「注意書き」を貼ってすますような、「今、何をすべきか考えろ」などという安易な働きかけでは話にならない。状況を話し具体的な行動の仕方を教え、変化が見られたことを認め、褒めてやることが一歩である。
 さらに補えば、小嶋悠紀氏がこんな言葉を遣っている。

 エラーレスラーニングが信頼関係構築の要

 そのために揺るぎない技術をもって指導しなければならない。
 しかし一番肝心なのは、古い言葉ではあるが「忍耐」を持って接することではないだろうか。
 本人の持続的な意志が絶対条件でありそれを支える周囲の態勢や眼差しなどいくつかの必要条件もある。

 間嶋氏は「変化がなく、心が折れそうになる日が何度もあった」と述懐している。それを乗り越えるエネルギーが技術に注入されなければ、子どもの信頼を得ることはできないと肌身で知る経験は貴重だ。