すぷりんぐぶろぐ

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生き延びて,ほむほむ

2012年08月09日 | 読書
 『整形前夜』(講談社文庫 穂村弘)

 読み始めて何かの雑誌の連載だなとは気付いたが,内容からしてどうも一誌ではないだろうことが読み取れた。
 著者独特の「未来志向自虐感」(こんなネーミングをしていいのか)にあふれた文章が多いが,中にはさすが『短歌の友人』を書いた人だと思わされる,鋭い分析の項目もあり,ふむふむ(いやこれは「ほむほむ」か)と何度も得心させられた。

 特に「共感と驚異」と「言語感覚」と題された項目は,それぞれ「その3」まで続けられている。
 どちらも『本の雑誌』に連載されたもので読みごたえがあった。

 「共感と驚異」という二つのキーワードは,文学にあまり近くないと感じていた自分にとって実にわかりやすい提示となった。
 そして,今のオリンピックの様々なシーンをどう見るかにも通じる気がする。
 つまり,私たちは驚異のままをキャッチしているだろうか。誘導された共感に流されていないか。

 「言語感覚」は,今までにない感覚で「生きる」と「言葉」との関係を暴いてみせてくれた。
 別の頁で,ちょっと恥ずかしい中学時代の過去を語りながら「裏返しの宝石」探しを止めない著者のその眼に,親近感を持ってしまう人は少なくないだろう。
 生き延びるための言葉遣いに疑問を感じてしまう人だ。

 それは,いつもいつも「用」「役に立つ」「なくては困る」ことばかり考えて,周囲を見回し言葉を選ぶことに,疲れ切った顔が見えている自分でもある。