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鍛える力を設定する

2012年08月24日 | 読書
 最初に読んだのはもう10年以上前になるが,この本はとても印象深い。

 『子どもに伝えたい〈三つの力〉』(斎藤孝 NHKブックス)

 当時『声に出して読みたい日本語』は既にベストセラーになっていた。しかし私にとってはこちらの著書からのインパクトが強かった。

 副題に「生きる力を鍛える」と添えられている。
 当時教育現場を席捲していたと言ってもよい「生きる力」の中身が,ある程度自分にストンと落ちたということだ。
 その後,公的に「生きる力」の内容として提示された「豊かな心」「確かな学力」等々といったことより,ずっと明快だと今読み直してもそう思う。

 三つの力は,「コメント力(要約力・質問力)」「段取り力」「まねる盗む力」である。
 この「中間項的な設定」の仕方は実に絶妙だと思ったのである。
 それは具体的な指導事項の一つ一つと結びつけやすいし,抽象的なコンセプトの文脈でも十分通用する意味を持っている。

 読み直しながら考えてみると,今盛んに重要なキーワードとして登場してくる「言語活動」そして「対話」に,深く結び付いていることがわかる。
 この著書に書かれてあることが,そういう動きに直接影響を及ぼした点も大きいのではないかと思えてくるほどである。

 発刊当時の動向と絡めて「総合的な学習」との関連も大きな部分を占めているが,今「活用」と称されていることの共通点が非常に多いことも気づく。

 いわゆる「総合」は時数的な面も衰退し,その精神さえ何か姿が変わったように存在している状況にある。
 しかし,最終的に「生きる力」が具現化されるための学習に一番近い内容としての位置づけは変わらないはずだ。
 いわゆる全国に名高い研究実践校の多くが,今でも総合的な活動にこだわっていることも頷ける。


 さて,再読して新たに第五章,第六章に目を惹かれる。

 存在証明=アイデンティティの教育

 クリエイティブな関係・場を作る技


 「コメント力」「段取り力」「まねる盗む力」を授業として組み立てていく際に,どんな視点を持ち,具体的にどう構成していくかかが記されている。

 教師が生徒の思考すべてを管理するやり方でなく,教師がすべてを知りえない場を授業の中に作っていくことが,重要な工夫となる。

 そのためには,例えばこうしたことが必要になる。

 「テキスト探し」を生活の中で習慣化する

 場全体を貫くテーマを一つのキーワードで言い表す


 それらはまさしく,教師自身の「コメント力」や「段取り力」が試され,高められていく場になるだろう。
 授業づくりそのもので鍛えられるのは教師だなと,当然のことを思い出す。