すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

不得手だから考察できる

2018年06月19日 | 読書
 土曜深夜に放送されていた『おっさんずラブ』は結構な評判で、そのドタバタ模様は面白かった。LGBTのことはNHKでも先ごろ『弟の夫』というドラマを放送したばかり。かなり認知が進んでいる。しかしいわゆるBLモノは、どこか異性感情への裏返しが微かに感じられたりして、理解できないのが正直なところ。


2018読了62
 『異性』(角田光代・穂村弘 河出書房新社)


 人気女性作家(実は単著は読んだことがない。原作映画は面白いけど)と人気男性歌人が相互に書いていく形の本。帯によれば「カクちゃん&ほむほむの恋愛考察エッセイ」である。強引な私的まとめは「異性との恋愛を通して自己実現を図ることが不得手な二人は、実はその不得手さゆえに自己実現を為しえた」こと。


 身も蓋もない言い方なのかもしれない。しかしそれだけ自らの失敗経験と分析をあからさまに語っていて、ある意味見事である。穂村の話は結構読み込んでいるので承知しているが、角田のあけっぴろげさもユニーク。同性の共感か、今回も穂村の名言はキレが鋭い。ごく単純な思いもこう語られると、深い。

 「どうやら『好き』という気持ちを検算してはいけないらしい」

 「思うに、恰好いいとかもてるとかには、主電源というかおおもとのスイッチみたいなものがあって、それが入っていない人間は、細かい努力をどんなに重ねても、どうにもならないんじゃないか」



 穂村に強いシンパシーを感じてから年数が経つ。また今回も「ああ同じだ」と思ったことがある。「藤圭子が好き」なこと。紹介されたエピソードにもまいった。藤圭子は「今年の抱負は?」と尋ねられ、「抱負」の意味を知らず答えられなかったという。その後『命、預けます』を歌ったと想像したのもさすがの穂村だ。


 角田の文章も興味深く、特に首肯したのは「名づけ」のことだった。恋愛関係が悪化して「七転八倒の苦しみ」を生々しく持っていたのだが、その正体を「端的に言葉を当てはめてもらえたときに、ほっとした」とある。名なしが怖いのは誰しも同じか。穂村が名付けたその心理「さかのぼり嫉妬」も十分怖いけれど。