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日日是好日の人、逝く

2018年09月19日 | 雑記帳
 個性派という形容では収まらない、唯一無二の女優とも言うべき樹木希林が逝ってしまった。昨年だったか再放送されていた『寺内貫太郎一家』を見て、今さらながら、その表情の多彩さに驚いたことを覚えている。最近の是枝映画や名作『あん』『わが母の記』など、彼女の演技抜きで成立しない作品は非常に多い。


 ご存知の方は少ないだろう。20年以上前樹木希林の主演した連続ドラマがあった。『鬼ユリ校長、走る』と題され、隣県花巻の小さな小学校を舞台にしていた。当時は学校が舞台のドラマが多く、ほのぼのとした作品だった。今思うと、彼女が発していた人間を丸ごと認める受容性こそ、学校に求められている気がする。



 『日日是好日』という映画がこの秋公開されるという。サイトを検索したら、これまたなかなか渋い。落ち着いた趣のある作品だろうと想像できる。樹木希林の身体を通して語られることも、きっと今までと同じように心に染み入ってくるだろう。「日日是好日」、書としてもよく掲げられる禅語。かの大国でも観た。


 その経典の冒頭「過去をおいゆくことなく また未来を願いゆくことなし/過去はすでに過ぎ去りしもの 未来は未だ来ぬものゆえに」が根底精神であることを以前メモしていたが、いまだ修業足らずの我が身を恥じるこの頃だ。樹木希林を惜しむ周囲の言葉からは、まさに「日々是好日」を具現していた人と感じる。


 8月16日BSプレミアムで「にっぽんのお盆」を生放送した時、出演予定の樹木希林は病床から電話で声を寄せていた。地元の盆踊り中継があり録画していた。番組冒頭の場面で、彼女は「そちらへ行くかも」と明るく笑って語っている。電話を終えるその声に、東儀秀樹の吹く笙の音が静かに重なって流れていた。