すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

猫と名前と想像力と

2019年06月08日 | 読書
 猫の小説と言えばかの夏目漱石となるが、吉本隆明は「吾輩は…」の猫について「移動する視点。」といったような言い方をしていた。猫、犬どちらも苦手な自分が、小説に登場させるならやはり猫という気がするし、取り上げた作品も案外多いようだ。犬より複雑な思考をすると言ったら、犬好きには叱られるかな。


2019読了56
 『猫が見ていた』(湊かなえ 有栖川有栖、他 文春文庫)



 7人の作家によるアンソロジー。たまにこうした文庫を買うのは、未読の作家がいるので(今回は3人)短編で良さを発見できれば、という期待を持っているからだ。結果、そんなに特徴的な文体は見いだせなかったというのが正直なところ。湊かなえの「マロンの話」という作家の苦労話(笑)が一番面白かった。


 北村薫はさすが手練れだと感じた。なんせ題名がいい。「『100万回生きたねこは絶望の書か』。これだけで惹かれる。そこで語られる読書論もストレートだ。曰く「本は一冊でも、読みは読んだ人の数だけある。それが本の値打ちだ。」。井上荒野の作品も「らしい」描き方だ。人間の「気分」の脆弱さをみせつけてくれる。


 東山彰良の作品はやはり?舞台が台湾だが、刺青屋が取り上げられ、今までその入れる意味を考えたことがなかったので、少し納得した。それにしても白猫を黒猫にできる刺青もあるようだ。何事にも染まらないための黒だ。「黒い白猫」という題名が象徴的だ。しかし相変わらず台湾の人名は覚えにくく、読みづらい。


 この文庫の後に手にした、とある警察小説、途中でどうもしっくりこなくて読了しなかったが、前半猫が登場する場面にとても面白い一節を発見した。ある作家の言葉と記されていた。「その人の想像力が高いか低いかは、猫に命名する能力で知れる」…試されたい。誰か私を名付け親にしてくれないか。飼わないけど(笑)